medicina 46巻6号 (2009年6月)

今月の主題 内分泌疾患を診るこつ

出雲 博子
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 一般病院で,一般内分泌代謝外来をやっていると,いろいろな内分泌疾患の患者さんが紹介されてくる.初めから自分が内分泌代謝疾患をもっているのではないかと思った患者はほとんどいない.どこか悪いので医者にかかりたいのだが,何科にかかったらよいのかわからなかったというケースが多い.そして,たまたま最初に受診した医師が内分泌疾患を疑ってくれれば運が良くて,すぐ内分泌科に紹介され,われわれ内分泌専門医は“2番目にかかった医者”となる.しかし,多くの患者さんが「4つか5つの科にかかってみたのですが,何ともないと言われ,先生は5人目です」などとおっしゃる.それは,医師であっても,症状から内分泌疾患を疑うのが苦手な医師が多いことを意味するのだと思う.

 病気には,癌などのように発見するのは比較的ストレートにいくが治すのが難しいタイプの病気と,いったん発見されさえすれば治療はストレートだが発見されずに見逃されやすいタイプの病気とがある.内分泌疾患は後者に入るものが多い.

理解のための17題―内科認定医・専門医試験対策

内分泌疾患をみつけるこつ

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 内分泌疾患の患者の訴えは,不定愁訴のような症状,あるいは動悸(循環器疾患)や生理不順(婦人科疾患)といった他臓器の疾患を思わせるような症状が多い.また,初診時にその疾患の教科書に書いてある典型的な症状がそろっていることは稀で,一部の症状のみ呈していたり,日を追ってほかの症状が出てくることが多い.さらに,脱毛など,患者はそれを病気の症状とは思わないため,たとえ存在しても訴えない症状も多く,医師が質問して初めて存在が明らかになることも多い.したがって,症状から診断へ結びつけるのは簡単でないことも多い.しかし,一方,よくその疾患の症状を知っていれば,患者を一目みただけで,診断のつくことも少なくない.

 内分泌疾患を診断するには,各ホルモンのいろいろな臓器への作用とそのホルモンの欠乏,あるいは過剰により呈しうる症状をよく知っておくことが重要である.そして,日を追って症状の経過をみること,患者が訴えなくとも医師のほうから症状をよく聞きだすこと,よく診察をすることが大切である.

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ポイント

●顔を見て分かる疾患に注意する.

●皮膚を見て分かる疾患に注意する.

●発生状態から分かる疾患に注意する.

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ポイント

●内分泌疾患は,一般血液生化学検査に異常所見が出る場合でも,非特異的な異常が多いので,積極的に疑わないと見逃す.

●アナムネーゼ,理学所見,そして検査所見を総合して考えよ.

●疑ったら的確な検査で診断を.

よく出遭う内分泌疾患 【甲状腺疾患】

甲状腺機能低下症 久保田 憲
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ポイント

●CKとLDHの高値を伴う高コレステロール血症は甲状腺機能低下症を疑う.

●高コレステロール血症の薬物治療には事前に必ず甲状腺機能検査を行う.

●甲状腺機能低下症のスクリーニング・診断・重症度判定にはTSHが重要.

甲状腺機能亢進症 吉村 弘
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ポイント

●Basedow病と最も鑑別困難な疾患は抗甲状腺薬治療の必要のない無痛性甲状腺炎である.

●TSHリセプター抗体の測定はあくまでBasedow病診断の補助診断である.

●抗甲状腺薬治療中は常に副作用の出現に注意が必要である.

妊娠と甲状腺疾患 坪井 久美子
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ポイント

●妊娠初期にはhCG上昇に伴う一過性甲状腺機能亢進症がみられる.

●妊娠中のBasedow病治療は妊娠週数により選択薬剤が異なる.

●新生児Basedow病を予防するため,母体のTRAbをできるだけ低下させる.

●妊娠中は甲状腺ホルモン補充量を25~50%増量する.

ヨードと甲状腺 田尻 淳一
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ポイント

●本邦では,甲状腺機能低下症と診断したら,問診でヨード過剰摂取について聴取する.

●ヨード過剰摂取による甲状腺機能低下症は,ヨード制限のみで甲状腺機能は正常化する.

甲状腺の検査 武田 京子
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ポイント

●甲状腺機能の評価には,血中TSH,FT4,FT3を測定する.

●病因診断には,甲状腺自己抗体を測定する.

甲状腺腫の扱い方 深田 修司
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ポイント

●甲状腺腫というのは,甲状腺の腫れている状態であって疾患ではない.

●甲状腺腫の原因,甲状腺機能,治療の必要性,その緊急性の有無,遺伝性などを整理しながら多角的に診断・治療を進めていく.

●甲状腺腫がない甲状腺疾患もある.

よく出遭う内分泌疾患 【副甲状腺疾患】

原発性副甲状腺機能亢進症 村上 司
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ポイント

●一見健康な人にみられる高Ca血症が診断の契機である.

●生化学検査と超音波検査で診断する.

●手術によりほとんどが治癒する.

よく出遭う内分泌疾患 【副腎疾患】

内分泌性高血圧症の鑑別 猿田 享男
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ポイント

●ホルモン測定法の進歩と画像検査法の普及で,内分泌性高血圧症の発見頻度は高くなった.

●成人の高血圧患者の10~15%が二次性高血圧症で,その半数が内分泌性高血圧症であり,副腎が関連したものが大部分である.

●副腎が関係した高血圧症のうち,原発性アルドステロン症と褐色細胞腫が発見される頻度が高くなっている.

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ポイント

●原発性アルドステロン症(PA)は高血圧の10~20例中1例の原因となる,疾患特異的な症状がなく,臓器障害の多い二次性高血圧である.

●PAはアルドステロンとレニン活性の同時測定でスクリーニングする.

●手術による治療を希望するPA患者では,副腎静脈採血を行いアルドステロンの過剰分泌の原因となっている副腎を確定することが必須である.

●片側副腎からのアルドステロン過剰分泌が原因のPAは手術で治癒が可能である.

Cushing症候群 沖 隆
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ポイント

●高コルチゾール血症による疾患である.

●ACTH依存性と非依存性の病型が存在する.

●手術治療が第一選択となる.

褐色細胞腫 野村 馨
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ポイント

●スクリーニングにはメタネフリン分画測定がよい.

●画像診断(超音波,CT,MR,シンチ)の特長を知る.

●治療原則は腫瘍摘出である.

●降圧薬の使用方法を知る.

副腎偶発腫瘍 和田 典男
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ポイント

●多くは良性腫瘍で,約1/4がホルモン産生腫瘍である.

●画像診断はCTに加え,必要に応じてMRIやシンチグラムを選択する.

●コルチゾール分泌の評価を中心に,ほかのホルモンについても検査を行う.

●手術適応はホルモン産生腫瘍,腫瘍径3cm以上で,悪性が疑われる場合である.

よく出遭う内分泌疾患 【下垂体疾患】

下垂体前葉機能低下症 石原 隆
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ポイント

●症状は不定愁訴と紛らわしいので,うるさいと思わず真剣に聴くこと.

●原因は腫瘍が最多であるが,単独欠損症の原因は自己免疫が考えやすい.

●副腎皮質機能低下症は食欲不振の鑑別診断において常に考える必要がある.

先端巨大症 栗本 真紀子 , 肥塚 直美
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ポイント

●糖尿病,高血圧,頭痛を呈する者のなかに先端巨大症は存在するため,軽微な顔貌変化に注意する.

●先端巨大症を疑ったら成長ホルモン(GH)およびインスリン様成長因子-I(IGF-I)を測定する.

●トルコ鞍内に限局する下垂体腺腫では手術成績が良好であり,早期発見が望まれる.

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ポイント

●続発性無月経の原因の約30%,乳漏症を伴う無月経の原因の50%以上はプロラクチノーマといわれている.

●プロラクチノーマは内科的薬物療法が第一選択となる疾患であり,かつ顕著な治療効果が期待できる疾患である.

尿崩症 岩﨑 泰正
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ポイント

●多尿と頻尿を鑑別する.

●バソプレシン(AVP)分泌ないし作用障害の存在を,各種負荷試験を用いて診断する.

●基礎疾患の有無を確認したうえで,病態に応じた治療方針を決定する.

●「特発性」と診断しても,定期的に基礎疾患の再評価を行う.

よく出遭う内分泌疾患 【性腺機能低下】

女性性腺機能低下 栗下 昌弘
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ポイント

●一般内科医が女性の性腺機能低下症を診る機会は少ないが,内科,小児科でも診られる症状が本疾患を疑うヒントになることを忘れないこと.

●更年期の女性は,さまざまな不定愁訴をもって来院する.まず器質的疾患を除外することが最も重要である.

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ポイント

●LOH症候群の症状として倦怠感,気力低下などに加え,性欲や勃起力の低下がみられる.

●フリーテストステロン11.8 pg/ml未満の場合,男性ホルモン補充療法(ART)の適応となりうる.

●前立腺癌の疑いのある場合はARTは禁忌であり,ARTの合併症として多血症に注意が必要.

緊急を要する内分泌疾患

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ポイント

●甲状腺クライシスは死亡率20%以上の重篤な疾患である.

●原因不明の頻脈,発熱,心不全症状,中枢神経症状をみたら甲状腺クライシスを疑う.

●甲状腺機能の検査結果がすぐ得られない場合は,症状所見から疑われたら治療を開始すること.

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ポイント

●副腎不全には特異的な症状はないため,症状・検査所見から疑うことが大切である.

●副腎クライシスを疑ったときは,検査・診断を待たず,治療を開始することが大切である.

●患者教育が大切であり,ステロイドを自己判断で中止したりしないように指示しておく.

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 内分泌疾患は一般に稀な病気だと考えられており,見逃されることが多いという.また外来では,初めから「自分は内分泌疾患だろう」と思って受診してくる患者もきわめて少ない.しかし診断さえつけば治療可能なものが多いことも特徴であり,見つけることが非常に重要となってくる.この座談会では,専門医が何をみて,どのように内分泌疾患を拾い上げているのか,その“こつ”を語っていただいた.

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糖尿病における病診連携:重要なのに,なぜ進まないか?

 糖尿病は,その疾患の本態から考えると生活に密着した診療の継続が必要であり,かかりつけ医の存在は重要であることは,これまでに何度も強調されてきたことです.しかし実際に当院へ紹介された患者をかかりつけ医に逆紹介しようと思ってもいくつかの問題点があります.

連載 手を見て気づく内科疾患・6

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患 者:73歳,男性

病 歴:3カ月前から顔,手にかゆみを伴った皮疹が出現した.1カ月前からは,階段の上り下りが困難になってきた.近医を受診したところ,血清CK(クレアチンキナーゼ)が2,000 IU/lと高いことを指摘され,紹介受診となった.

身体所見:手の遠位指節間関節,近位指節間関節,中手指節関節の背側に角化傾向の強い紅斑,ゴットロン徴候(Gottron's sign)を認める(図1).かゆみを伴う.爪上皮出血点(Nail fold bleeding:NFB),爪上皮の延長も認める(図2).三角筋,腸腰筋,大腿四頭筋の筋力が両側性に低下(4/5)している.

連載 内科医のためのせん妄との付き合い方・3

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せん妄は基本的に身体的な問題なしには起こらない.せん妄が先行する緊急性の高い身体疾患を見落とさないことが大切である.「精神症状をみたら,まず身体疾患に由来する精神症状を除外する」ことは精神医学の原則である.

連載 研修おたく海を渡る・42

ラボを動かす力 白井 敬祐
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 いままで,じっくりと腰を据えて研究する時間をもってこなかったのですが,最近,臨床試験と基礎研究を組み合わせたTranslational Researchを進めるための話し合いに出る機会が増えました.くっついたり,離れたり,コラボレーションと呼ばれる共同研究がさかんに行われています.

 アメリカ人だけでなく,中国人,トルコ人,もちろん日本人研究者もいます.ちんぷんかんぷんな議論にただじっと座って耐えることもありますが,多くの研究者たちと触れるチャンスを得たことで,ずいぶん刺激を受けました.今回は,そこで気付いたリーダーの特徴,ラボを動かす力について感じたことをつづってみたいと思います.

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 「ここに答があった!」──これがこの本を手にとってみての率直な感想であった.

 若手家庭医部会の仕事をしていると研修医からさまざまな相談を受ける.「いい家庭医・総合医になるには?」「どこまでを診療範囲とするのか?」「専門医などの資格は取らなくていいのか?」「家庭医は都会には向かないのでは?」などなど,回答に窮することも多い.しかし,この本をひもとくことで,これらに対する答えが明確になっていった.

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編集室より I
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●内分泌疾患は,みつかれば治る可能性が高いが,見逃された場合は不幸な転帰をたどることが多いとのこと.患者の立場からすると,まず最初に鑑別していただきたい疾患のように思えてなりません.今回の特集は「みつけること,見逃さないこと」に的を絞って企画され,早期に診断することの重要性が強調されました.多くの先生方に本号を読んでいただき,内分泌疾患を的確に診断する力を養ってもらいたいと思います.

●“診断する力”といえば,弊誌『medicina』で2006~7年に連載された「Case Study 診断に至る過程」が昨年単行本化され,『ティアニー先生の診断入門』(ローレンス・ティアニー,松村正巳 著)として好評を博しております.そのほか『診断力強化トレーニング』(松村理司,酒見英太 編集)や,『誰も教えてくれなかった診断学』(野口善令,福原俊一 著)など,診断力を高めるための書籍が弊社より続々と発刊されています.

基本情報

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medicina
46巻6号 (2009年6月)
電子版ISSN:1882-1189 印刷版ISSN:0025-7699 医学書院

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