眼科 67巻11号 (2025年10月発行)

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特集　遺伝性網膜疾患の最新情報

序論門之園　一明 67巻11号 , 2025年10月 , pp.1131-1131

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遺伝性網膜疾患，なかでも網膜色素変性症の患者さんは，一般の眼科外来でも日常的に遭遇し，しかも長期にわたり定期的に診療を続けることが少なくありません。にもかかわらず，治療選択肢の乏しさから無力感を覚えたり，「何か良い治療はありませんか」と問われて戸惑ったりした経験を持つ先生も多いのではないでしょうか。遺伝性疾患に強い関心を持つ先生は別として，多くの臨床家にとって遺伝性疾患は難解で研究色が強い分野として敬遠されがちでした。

１　わが国の遺伝性網膜疾患の現状池田　康博 67巻11号 , 2025年10月 , pp.1133-1137

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RPE65関連網膜症に対する遺伝子治療が保険収載された2023年を境に，わが国における遺伝性網膜疾患，特に遺伝性網膜ジストロフィ（inherited retinal dystrophy：IRD）という疾患に対する認識が眼科医だけでなく患者においても変わりはじめたと言って良いだろう。並行して遺伝学的検査が保険収載されたことを含め，転機の年となった。遺伝子治療や遺伝学的検査についての詳細は他稿に譲るとして，本稿ではその周辺の出来事を紹介したい。

２　遺伝性網膜疾患の診断の進歩上野　真治 67巻11号 , 2025年10月 , pp.1139-1144

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遺伝性網膜ジストロフィ（inherited retinal dystrophy：IRD）の診断は，問診，眼底検査，視野検査，網膜電図（ERG）などの電気生理学的検査，光干渉断層計（OCT）や眼底自発蛍光などの画像所見を総合的に判断し，場合によっては遺伝学的な検査により原因遺伝子の同定が行われる。IRDに限らず眼科分野での診断技術の進歩は目覚ましいものがあるが，本稿では，特にIRDの診断で重要な画像所見，ERG所見，遺伝子検査に関する近年の進歩について述べる。

３　現在の遺伝性網膜疾患の治療村上　祐介 67巻11号 , 2025年10月 , pp.1145-1149

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患者一人ひとりのゲノム情報，環境，ライフスタイルなどを考慮し，最適な予防法や治療法を選択する「プレシジョン・メディシン（精密医療）」は，特にがん治療の分野で応用が進んでいる。そのなかでも「ゲノム情報」は，個人の体質や病気の根本原因を明らかにし，より効果的で安全な治療を選択するための中核となる情報である。

４　未来の遺伝性網膜疾患の治療西口　康二 67巻11号 , 2025年10月 , pp.1151-1155

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遺伝性網膜疾患は，かつては有効な治療法が乏しい難病とされてきた。しかし，近年，遺伝子治療技術の目覚ましい進歩により，これらの疾患に対する画期的な治療法の開発が急速に進んでいる。特に，アデノ随伴ウイルス（AAV）を用いた遺伝子治療は，眼科領域におけるゲノム医療時代の到来を告げる象徴的な存在となっている。本稿では，次世代の革新的なアプローチなど，遺伝性網膜疾患治療の近未来について考察する。なお，網膜再生医療については，他項で詳しく説明するので本稿では割愛させていただく。

５　遺伝性網膜疾患へのiPS治療栗本　康夫 67巻11号 , 2025年10月 , pp.1157-1165

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かつて，遺伝性網膜疾患に対する治療法は極めて限定的で，事実上「治療法はない」と考えられていた。しかし近年，遺伝子治療や再生医療など実効性のある治療法が開発され，その一部は臨床応用されつつある。

綜説

薬剤性角結膜障害難波　広幸 67巻11号 , 2025年10月 , pp.1169-1176

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眼科では点眼薬を使用するため，眼表面に薬物有害反応が表出することがある。しかしその発現様式は一様ではなく，直接的な組織障害のほか，アレルギーや接触皮膚炎などの免疫反応を示すこともある。さらに，点眼薬の主剤以外に基剤，添加物などが原因となる場合があること，薬剤アレルギーの病態・機序が十分に解明されていないことなども，その評価を難しくしている。また接触頻度の関係で角結膜上皮への影響が多いが，一部の薬剤では角膜実質への影響や角膜内皮障害も起こり得る。

加齢に伴う視機能変化川守田　拓志 67巻11号 , 2025年10月 , pp.1179-1183

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眼球光学系および網膜・神経系は，加齢とともに変化し，視機能の変化が生じる。眼球光学系においては，角膜，瞳孔，水晶体，房水，硝子体などの物理的・構造的変化が起こる。さらに，水晶体の弾性低下による調節力の減退，光透過性の低下なども視機能の変化に寄与する。本稿では，眼光学的観点から，加齢に伴う視機能の変化についてまとめる。

機器・薬剤紹介

90．バビースモⓇとアイリーアⓇ8mgのプレフィルドシリンジ井上　麻衣子 67巻11号 , 2025年10月 , pp.1186-1189

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抗血管内皮増殖因子（VEGF）薬治療は，加齢黄斑変性，糖尿病黄斑浮腫などの網膜硝子体疾患治療における第一選択薬として欠かせないものになっている。最近では第二世代と呼ばれる抗VEGF薬［ベオビュⓇ（ブロルシズマブ），バビースモⓇ（ファリシマブ）］が台頭している。また，昨年にはアイリーアⓇ（アフリベルセプト）の高濃度製剤であるアイリーアⓇ8mgが発売され，種々の抗VEGF薬が選択可能となっている。しかしながら，バビースモⓇ，アイリーアⓇ8mgはバイアル製剤であったため，薬剤調整に時間がかかり，バイアル調整時の感染リスクもあったため，プレフィルドシリンジの登場が望まれていた。

症例報告

抗酸菌症治療薬リファブチンによる高度の角膜沈着をきたした1例美濃　剛志 , 横川　英明 , 森　奈津子 , 小林　顕 67巻11号 , 2025年10月 , pp.1191-1195

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抗酸菌症治療薬リファブチンによる高度な角膜沈着をきたした1例を経験したため報告する。患者は56歳女性。42歳時に肺非結核性抗酸菌症［肺Mycobacterium avium complex（MAC）症］と診断され，エタンブトール，リファンピシン，クラリスロマイシン内服を開始した。48歳時よりリファブチン内服を開始した。近医においてエタンブトールの眼副作用について経過観察中，51歳時より角膜沈着物を指摘され当科紹介受診となった。視力は両眼とも矯正1.2，中心フリッカ値は右32Hz，左35Hzであった。細隙灯顕微鏡により両眼の角膜実質深層に周辺部から中央にかけてびまん性に，多数の点状の白から黄褐色の沈着物がみられた。前眼部光干渉断層計で実質深層に混濁を認め，生体レーザー共焦点顕微鏡で実質深層に多数の高輝度なケラトサイトがみられた。角膜ジストロフィやその他薬剤による角膜実質沈着を除外し，リファブチンによる角膜沈着と診断した。患者の自覚症状はなく，リファブチン継続のまま経過観察とした。抗酸菌症治療薬リファブチンは特徴的な角膜沈着物をきたすことに注意が必要である。

原発性硝子体網膜リンパ腫症例の15年の経過宮本　美帆 , 木ノ内　玲子 , 長岡　泰司 67巻11号 , 2025年10月 , pp.1197-1204

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原発性硝子体網膜リンパ腫（PVRL）症例の15年の経過を報告する。患者は44歳男性。X年に左眼の霧視と飛蚊症を自覚し当院を受診した。矯正視力は両眼1.5，両眼に軽度の硝子体混濁を認めた。炎症所見は明らかでなく，硝子体混濁が増強し，PVRLを疑い検査を行った。右眼の硝子体細胞診で悪性細胞は陰性だったが，免疫グロブリン重鎖のPCRでJH遺伝子再構成陽性，両眼の前房水インターロイキン（IL）-10高値（IL-10/IL-6＞1）であった。眼外病変は認めず，PVRLと診断した。大量メトトレキサート（MTX）療法と両眼へのMTX硝子体注射を併用し，寛解を得た。X＋5年に脳にびまん性大細胞型B細胞リンパ腫を発症し，放射線全脳照射を含め加療され，寛解を得た。X＋11年に右眼矯正視力は0.6に低下し，網膜下病巣を認め，前房水IL-10は235pg/mLと高値で，眼内病変の再発と診断した。眼外病変は認めず，大量MTX療法＋MTX硝子体注射を併用し寛解を得た。その後，眼所見の悪化はなく，視力は両眼1.0を維持した。多臓器に再発があり加療を要し，白質脳症による軽度の認知機能低下はあったが，X＋15年に死亡する半年前まで良好な視力を保ち，activities of daily living（ADL）は自立していた。

本症例は，発症後5年間は中枢神経系への進展を認めず，11年間は眼内病変の再発なく，発症後15年で死亡するまで良好な視力とADLを維持した。全身的な治療が生存期間の延長に寄与した可能性はあるが，多臓器再発を長期に抑えることはできなかった。眼内病変を認めるPVRLに対しては積極的にMTX硝子体注射を併用すべきと考えられた。

炎症を伴った涙嚢憩室の1例高木　健一 , 田邉　美香 , 吉川　洋 , 鈴木　亨 , 園田　康平 67巻11号 , 2025年10月 , pp.1205-1210

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涙嚢部腫脹の鑑別として急性または慢性涙嚢炎や涙嚢腫瘍，眼窩蜂窩織炎が考えられるが，その他の疾患由来の涙嚢部腫脹の報告は少ない。今回我々は，涙嚢憩室に生じた炎症による涙嚢部腫脹の1例を経験したので報告する。患者は38歳女性，小児期から左眼に流涙症状を自覚していた。30歳時に左涙嚢部の発赤・腫脹が出現し急性涙嚢炎と診断され，涙嚢部切開排膿で加療を受け軽快したものの，同様の症状が再発を繰り返すため，九州大学病院眼科を紹介受診した。初診時，左涙嚢部と下眼瞼内側に発赤・腫脹がみられた。通水検査は正常で，MRIで涙嚢腹側にガドリニウム造影で壁が増強される5×3×6mmの嚢胞性病変を認めた。経皮的に腫瘤切除を施行したところ腫瘤は涙嚢と連続していた。切除組織はHE染色で涙嚢同様の多列円柱上皮に裏打ちされた嚢胞に多核巨細胞や泡沫状組織球，コレステリン結晶から構成された肉芽を伴っており，涙嚢憩室および憩室に生じた炎症性変化と確定診断した。術後一時的に発赤腫脹が軽快したが，術後2か月目に再発したため，涙嚢ごと残存した憩室を摘出し，涙小管鼻腔吻合術で涙道を再建した。その後3年間再発を認めていない。本症例のように通水良好な涙嚢部腫脹は涙嚢憩室の可能性を考慮する必要がある。

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目次 67巻11号 , 2025年10月

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読者アンケート 67巻11号 , 2025年10月 , pp.1166-1166

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予定目次 67巻11号 , 2025年10月 , pp.1184-1184

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学会告知板 67巻11号 , 2025年10月 , pp.1211-1219

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投稿規程 67巻11号 , 2025年10月 , pp.1222-1223

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著作権譲渡同意書 67巻11号 , 2025年10月 , pp.1224-1224

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タイトルページ作成要項 67巻11号 , 2025年10月 , pp.1225-1225

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編集後記 67巻11号 , 2025年10月 , pp.1226-1226

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基本情報

眼科
67巻11号
(2025年10月発行)

電子版ISSN：印刷版ISSN：0016-4488 金原出版

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