特集 アディクション支援のフロントライン
HIV感染症を併存する覚醒剤使用症の支援―Chemsexに対するハームリダクションの可能性
山口 正純
1
1長寿リハビリセンター病院 内科
pp.170-175
発行日 2025年6月5日
Published Date 2025/6/5
DOI https://doi.org/10.69291/pt51070170
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Ⅰ はじめに
覚醒剤使用症とHIV感染症の併存は,医療および支援の現場において複雑な課題を提起している。覚せい剤の使用は,性的リスク行動の増加や治療アドヒアランスの低下を招き,HIV感染のリスクを高めることが報告されている。特に,覚醒剤使用者は物質使用下でコンドームを使用しない性行為の頻度が高く,HIVや他の性感染症の罹患リスクが増大することが示されている。また,HIV陽性者の薬物使用は,精神的健康問題とも深く関連しており,うつ病や不安障害の併発が多いとされている。特にHIV陽性者の多くを占める男性とセックスをする男性(MSM: Men who have sex with men;以下MSM)においては,薬物使用の背景にある要因として性的マイノリティゆえの偏見や社会的孤立,あるいは幼少時の逆境体験や過去のトラウマ体験が影響している可能性が指摘されている。
本稿では,HIV陽性者ならびにHIV感染リスクの高いMSMにおける覚醒剤使用,特にChemsexといわれる性行為に伴う薬物使用について概説するとともに,Chemsexに対するハームリダクションの実践の有効性や,HIV感染リスクの高い薬物使用者に対するPrEP(Pre-Exposure Prophylaxis;暴露前予防投与)やPEP(Post-Exposure Prophylaxis;暴露後予防投与)についてなど,Chemsexを行う人々に対して医療や支援を提供する際に参考となる情報を提供できればと考えている。

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