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Ⅰ 「リカバリーを目指す認知療法(Recovery-Oriented Cognitive Therapy:CT-R)」とジュニアアスリート
CT-Rは「認知行動療法」の創始者であるAaron Beck博士が80代半ばで提唱し,生前最後に情熱を燃やしたアプローチとして2021年に100歳で亡くなる日の数日前まで取り組んでいたと言われている。個人的には博士の長年の経験と研究から生み出された「認知行動療法」の集大成的なアプローチと考えている。
リカバリー(どんな困難に直面しても,その人が選んだ有意義な人生を送れるようになること)をネガティブな側面にフォーカスするのではなく,その人の持つ能力を尊重しつつアスピレーション(心の底から人生に求める夢や希望)を同定し,共にポジティブな考え,行動を育みながら目指すこの療法はAaron Beck博士の娘でベック認知行動療法研究所(Beck Institute For Cognitive Behavior Therapy and Research)所長のJudith Beck博士が「認知行動療法(CBT)が問題や症状(ネガティブな側面)に焦点をあてるのに対し,CT-Rは人生・生活のベストな時(ポジティブな側面)に焦点をあてる」と言っているように全く別の角度からのアプローチとなっており,ポジティブな側面にフォーカスすることから,その対象者はメンタル不調の人に留まらず,多くの人たちに有効となると考える。
しかし,実際の臨床の場面ではCT-Rを行う際にとても重要となるアスピレーションを同定できず,障壁となっているケースが多くみられる。自分もメンタルクリニックでカウンセラーとしてメンタル不調の人と関わる際,「楽しいことなど何も無い」「夢も希望も無い」「将来に良いことなど無い」「幸せになる資格が無い」などネガティブ感情ばかりを表出し,本来誰もが持っている夢や希望(映画俳優になる,大富豪になる,恵まれない人々を助ける,幸せな家族を持つ,などなど)すら見失っていることが多い。その点,自分が寮監として関わっているジュニアアスリートたちは大きな夢や希望(プロサッカー選手になる,海外でプレーする,選手権で活躍する,プロになって親に恩返しする,などなど)を明確に持ち,その実現に向け日々精進しているので,CT-Rの大半を自主的に行っていると言える。

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