連載 精神科診療の見立てと精神療法を,改めて考えてみよう
啓蒙思想,ロマン主義とドイツ精神医学①―啓蒙思想と科学革命の関連
原田 誠一
1
,
神田橋 條治
2
,
中尾 智博
3
,
高木 俊介
4
,
岸本 寛史
5
,
滝上 紘之
6
,
八木 剛平
7
1原田メンタルクリニック・東京認知行動療法研究所
2伊敷病院
3九州大学大学院医学研究院 精神病態医学
4たかぎクリニック
5静岡県立総合病院
6應義塾大学医学部精神・神経科
7翠星ヒーリングセンター
pp.922-936
発行日 2024年12月5日
Published Date 2024/12/5
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はじめに
これまで18世紀後半~19世紀フランスの精神医学について,本連載のテーマ「精神科診療の見立てと精神療法を,改めて考えてみよう」をふまえつつ,その概略を眺めてきた。今回から同じ時期のドイツの精神医学を,同じ趣旨に沿って振り返ってみることにする。
筆者の個人的な印象では,従来18世紀後半~19世紀のドイツ精神医学が紹介される際には,19世紀中頃までの記載は二人の代表選手であるカント(啓蒙思想)とハインロート(ロマン主義)を取り上げて手短に済ませ,19世紀中頃以降ドイツが西欧の精神医学の主導権を握っていく経過がじっくり語られることが多かったように感じている。本連載の第1回で触れた大立者グリージンガーが初めに登場して,その後にクレペリンらの業績に関する精述が続くという段取りである。
しかるに今回は,19世紀半ば以前のカントと啓蒙思想,ハインロートとロマン主義,そしてこの両者の背景に存在していた因子にも,必要な範囲で目を向ける方針をとってみる。その嚆矢となる本稿では,啓蒙思想と精神医学の関係について再考する作業から始めることにしよう。啓蒙思想と精神医学の関連については既に本連載の4回で簡単に触れたが,まだ考察すべき内容が多々あると筆者が考えているためだ。
本稿のメインテーマである啓蒙思想が成立,発展するにあたって,当時の西欧における天体力学と古典力学の画期的な進歩(科学革命)注1)が強い影響を及ぼしたことが知られている。先ずはこの事情を,次節で振り返ってみる。

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