連載 精神科診療の見立てと精神療法を,改めて考えてみよう
啓蒙思想,ロマン主義とドイツ精神医学④―宇宙的人間スピノザ登場Ⅰ
原田 誠一
1
,
神田橋 條治
2
,
中尾 智博
3
,
高木 俊介
4
,
岸本 寛史
5
,
滝上 紘之
6
,
八木 剛平
7
1原田メンタルクリニック・東京認知行動療法研究所
2伊敷病院
3九州大学大学院医学研究院 精神病態医学
4たかぎクリニック
5静岡県立総合病院
6東京都立松沢病院精神科
7翠星ヒーリングセンター
pp.370-383
発行日 2025年6月5日
Published Date 2025/6/5
DOI https://doi.org/10.69291/pt51030370
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デカルトRené Descartes(1596~1650)に続いて本連載への登場を願うのは,一世代後の哲学者スピノザBaruch de Spinoza(1632~1677)である。再度の寄り道が生む迂遠を自覚して,共著者の皆さま,読者諸賢に恐縮する気持ちがあるのだが,それでも今回筆者はスピノザを取り上げようと思った。「本連載の趣旨をしっかり具現するためには,デカルトの次にスピノザを紹介する必要があるだろう」という(勝手な)判断を,皆さまに少しずつご理解いただけるのではなかろうか,という(勝手な)期待もあってのことである。
多くの諸兄姉と同じように,筆者にとってスピノザはその高名だけが頭の片隅にある縁遠いの哲学者であった。こうした事情が一変したのは,令和6年の初めに國分功一郎著『スピノザ―読む人の肖像』(岩波新書)を紐解いてからだ。河合隼雄学芸賞を受けたこの本を手引きとして『エチカ』(Spinoza, 1677)を読み進める内に,デカルトの『哲学原理』(1641)を批判的に検討した『デカルトの哲学原理』(1663)を出発点の一つにしたスピノザが,デカルトとは異なる,むしろ全く対照的な認識を持つに至った事実を知った。
そしてスピノザの卓越した見解には,これまで概観してきたデカルトへのさまざまな批判との共通点が多々あり,さらには本連載の趣旨と本質的な深い関連が見られる(ように感じられる)ことに,文字通り驚嘆したのである。本稿では筆者のこの実体験を素描して,今回スピノザに登場願うことに至った意図を説明させていただく。

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