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たぶん私がかつて『学校って何だろう』(ちくま学芸文庫,2005)という書物を出版したからでしょう。編集部から依頼があったタイトルは「先生って何だろう」でした。引き受けてはみたものの,いざ書き始めると,このタイトルでエッセイを書くことの難しさにすぐ気づきました。今回の特集の企画書にはわざわざカギ括弧付きで「先生」や「先生たち」が使われています。専門的な議論であれば,教師や教員といった言葉が使われるでしょう。それをわざわざ特集のタイトルに「先生」とつけたのには何か特別の理由があったはずです。そう考え始めると,「先生って何だろう」という問いに応えることが簡単ではないことがわかったのです。
「先生」が呼称であることは確かです。日本の学校では教員同士が互いに○○先生と呼び合うことも知られています。初めて会った人同士でも相手が教員だとわかれば○○先生とか,単に先生と呼ぶことは珍しくありません。
しかし,職業名と言うよりも呼称と言える「先生」をあえて使ってそのメンタルヘルスを問うことにどのような意味があるのか。教師あるいは教員とは何かという問いではなく,「先生って何だろう」を論じるとしたら,そうした呼称が通用する日本の学校について考えてみる必要があると思います。なぜなら,英語圏の学校では通常同僚の教師を呼ぶ場合であればファーストネームを呼び合い,より公式の場であれば姓の前にMr, Mrs, Missを付けて呼ぶことが普通だからです。そう考えると,日本だけの特徴とは言えませんが,○○先生という呼称が広く使われるのには,私の知っている英語圏とは異なる日本の学校の特徴が関係していそうです。そのような前提に立って,「先生って何だろう」という問いを,「先生と呼び合う日本の学校って何だろう」に変換して考えてみましょう。
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