連載 とらうべ
先生と呼ばないで
松本 信子
pp.629
発行日 1997年8月25日
Published Date 1997/8/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611901754
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子育てのための約10年間のブランクの後,それまで存在さえも知らなかった日本助産婦会・東京都支部へ入会したのは16年ほど前でした.実際には,支部のずっと末端の地区会に入会したことになります.そこで一番ショックを感じたのは,ブランクの間の驚異的な医学の進歩ではなく,助産婦が互いに「先生」と呼び合っている,そのことでした.保健所の保健婦もまた,助産婦を「先生」と呼んでいるのを聞いて,この世界ではやってはいけない,すぐにでも退会したいと感じてしまいました.
それでも赤ちゃんと接することのできる仕事を捨てる決心がつかず今に至っています.その間,記憶にある限り一度も先生と呼ばず,母親ほどの年齢差のある大先輩にも,お名前で呼ばせていただいてきました.保健婦たちの変わり身は早く,彼女たちからの「先生」の声はあっという間に消えました.一度も話し合ったことはなかったのに生じたこの現象,やっぱり変だと感じていたんだな,と一人納得したのでした.
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