- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
I メルクマールせたがやの概要と世田谷区における若者支援ネットワーク
筆者の勤務先であるメルクマールせたがやは,2014年9月に開設された,世田谷区の子ども・若者総合相談センター(以下,子若センター)である。子若センターとは,2010年に施行された子ども・若者育成支援推進法(以下,子若法)第13条に定められた,子ども・若者の総合相談窓口の機能と子ども・若者の抱える困難・課題に応じて適切な関係機関へつなげる連携の機能を有する若者支援の拠点である。しかしながら,全国の地方自治体の設置数は2025年4月時点で124,市区町村では100(5.7%)に留まっている。市区町村が設置主体となっているこども家庭支援センターと比較すると,同時期で1,240(71.2%),最新の2026年4月1日時点では1,496(85.9%)となっており,子若センターの設置がいかに進んでいないかは明白である。義務教育課程修了となる15歳,児童福祉制度の切れ目となる18歳以降の若者支援が全国的に不足している状況であり,世田谷区では,子若センターをはじめ若者に係る地域の支援ネットワークを整備し,生きづらさを抱えた若者の社会的自立を支援している(図1)。
メルクマールせたがやでは,生きづらさを抱える若者とその家族に対して主に,①心理・福祉の専門職による個別相談,②クローズドな登録制の居場所,③不登校・ひきこもりに悩む家族向けの家族会,④訪問相談や機関連携などのアウトリーチ,といった活動を行っている。これまでの実践から,新規の相談の9割を10代および20代が占めており,特に10代の利用者においては家族が先行して相談利用につながる割合が高いことが示されている。また,来談経路としては関係機関からの紹介が最も多く,利用者の約6割は厚生労働省が定義するひきこもりの状態像に該当する。厚生労働省によると,ひきこもりとは,さまざまな要因の結果として,就学や就労,交遊などの社会的参加を避けて,原則的には6カ月以上にわたっておおむね家庭に留まり続けている状態のことで,他者と交わらない形での外出をしている場合も含むとされる。ただし,利用者の課題はひきこもりに限らない。現行の支援制度において,就労支援はハードルが高く,福祉サービスは確定診断がないために利用対象外となり,あるいは無業であっても家族と同居しているため経済的困窮には至らないなど,従来の支援・制度の網の目からこぼれ落ちてしまう若者層が,当センターの利用につながっている。このような人や社会とのつながりに困難を抱える若者からの相談が多数を占めるという点は,全国の子若センターに共通してみられる傾向であろう。
不登校やひきこもりは,病気や障害ではなく状態像を指す概念であるが,その困難の背景には複雑化・複合化した背景要因があるといわれている。実際,メルクマールせたがやの利用者においても,自己肯定感の低さや不安の高さといった心理的要因,家族関係の不和や対人関係のつまずき,経済困窮といった社会的要因,そして精神障害や発達障害などの生物学的要因が絡み合っていることが確認されている。こうした複雑化・複合化した困難を抱える若者を支援するためには,単一の機関に留まらず,複数の機関の専門性や機能を活かした支援体制が望まれる。子若法では,地方自治体に対して子若センターの設置だけでなく,第19条に子ども・若者支援協議会(以下,子若協議会)の設置に努めるよう定められている。子若協議会は,若者に係る地域のあらゆる機関が連携し,困難を抱える若者への効果的な支援体制の構築を目的としている。
子若協議会は,子ども・若者を主体とした支援体制であるが,世帯全体を見たときに若者当事者だけでなく家族が困難を抱えている場合も少なくない。世帯を見据えた支援の一例に,ヤングケアラーが挙げられる。子若法が2024年に改正され,家族の介護その他の日常生活上の世話を過度に行っていると認められる子ども・若者とされるヤングケアラーが法制上に位置づけられ,支援の対象となった。ヤングケアラーは,自身の成長・発達に必要な時間や社会生活に支障が出るほどに家族のケアの負担が重いことから,若者自身の支援だけでなく,家族のケアの負担が軽減されるよう世帯を見据えた支援が必要となる。

Copyright© 2026 Kongo Shuppan All rights reserved.

