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I 認識的信頼について
滝川(2017)など多くの専門家が,児童養護施設(以下,施設と略記)で暮らす子どものなかに,知的な発達に見合わない極端な学業不振を示す子どもが多くいることを指摘している。筆者が勤務する施設でも,自分の解き方に固執する子,自分の興味のある分野の授業しか聞かない子,ケアワーカー(以下,CWと略記)が学習支援をしようとしても全く聞く耳を持たない子などがおり,学業成績が芳しくない子が少なからずいる。
本論文では「認識的信頼(epistemic trust)」という概念を取り上げる。認識的信頼とは,「別の人から得られる新しい知識を信じるに値するもの,一般化できるもの,自分に関係するものとみなそうとする意志」(Fonagy & Allison, 2014)である。この概念を適用すると,施設入所前の被虐待体験により子どもの認識的信頼の形成が不十分な場合,学校教員やCWが知識を与えようとしても子どもにはそれを取り入れる意志がなく,知識が子どもの身につかず,深刻な学業不振に陥ってしまうと理解することが可能であろう。
なお,認識的信頼と似た概念に「基本的信頼」がある。伊藤(2006)は,基本的信頼とは,自分は世界から暖かく迎え入れられているという理屈抜きの感覚であり,対人関係の土台をなすものであると述べている。滝川(2017)は,精神発達を関係の発達と知的な能力の発達に分け,両者が相互に影響し合いながら進展していくプロセスに着目して詳述した。これらから,関係の発達の土台をなす関係への信頼が基本的信頼であり,知的能力の発達の土台をなす知識への信頼が認識的信頼だといえよう。
施設では,規則正しく,暴言・暴力・無視はなく,子どもの考えが尊重される生活を送るなかで,子どもに安心・安全の感覚が培われ,CWや教員との関係への信頼が生まれ,CWや教員が与える知識への信頼も生まれ,学業成績が向上していくことが期待されている。しかし,入所前の虐待体験の傷は深く,どちらの信頼も形成することが難しい実状がある。
そこで本論文では,グループホーム(以下,GHと略記)や学校での学習がままならなかった子どもに個別学習支援を行った事例を報告し,その経過を認識的信頼の形成に焦点を当てて考察したい。なお,当該児童(以下,Aと略記)と施設長から事例発表の了解を得た上で,Aが特定されることのないよう配慮して記述している。

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