特集 教科書には書いておらず,大学院でも教えてもらえない,現場で学ぶしかないありふれた臨床テクニック集
子どもが泥だらけでやってきたら―児童養護施設での心理面接をめぐって
高橋 裕之
1
1精舎児童学園
pp.68-71
発行日 2025年1月10日
Published Date 2025/1/10
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Ⅰ はじめに
日本のありふれた心理療法(東畑,2017)が実践されている現場のひとつが,児童養護施設(以下,施設と略記)である。なぜなら,現場のケアワーカー(以下,CWと略記)は入所している子どものことで困っており,心理的支援へのニーズがある一方で,大学院で教わった学派的心理療法論をそのまま適用することは難しく,現場に合わせて学派的心理療法論を変形させながら心理的支援を実践していく必要があるからである。
本論では,施設での心理面接の実施をめぐってどのようなことに困り,どう対処してきたかを述べ,なぜ学派的心理療法論をそのまま適用するのは難しいのかを論じる。その際,〈専門知〉とふつうの人間的応答である素人知を併記し,その対比を明確にしていく。なお,専門知とは遊戯療法におけるアクスラインの8原則のような,教科書に書かれている知見のことである。遊戯療法や精神分析といった,それぞれの心理療法の専門知が体系づけられたものが学派的心理療法論である。以下に紹介する〈専門知〉とは,私が上記の専門知をもとに“そうすべき”と思い込んでいた知見を指している。また,本論では施設の個室での個別的な関わりに対して,心理療法ではなく,心理面接という言葉を用いる。セラピーという側面の強い心理療法ではなく,セラピーもケアも含める心理面接の方が,施設での実践に即していると思うからである。
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