投稿論文 症例研究
複雑性PTSDへの理解不足により児童養護施設から措置変更となった事例
高橋 裕之
1
1精舎児童学園
キーワード:
注意欠如・多動症
,
児童虐待
,
ストレス障害-心的外傷後
,
対象愛着性
,
心理学的面接
,
児童養護施設
,
問題行動
,
児童自立支援施設
,
境界領域知能
Keyword:
Attention Deficit Disorder with Hyperactivity
,
Child Abuse
,
Object Attachment
,
Problem Behavior
,
Interview, Psychological
,
Stress Disorders, Post-Traumatic
,
Orphanages
pp.572-579
発行日 2024年8月5日
Published Date 2024/8/5
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本論文では,児童養護施設から児童自立支援施設へ措置変更となった男子の事例を取り上げた。児童養護施設に入所する前の彼は,継父から虐待を受けていた。継父が去った後,彼は家庭で自分の意図通りに物事が進まないと攻撃的な問題行動を取るようになった。筆者は彼に対して,ADHDの症状としての高い衝動性を薬で抑えながら自己制御力を高めていく,という支援方針を立てた。当時の筆者には,PTSDの症状としての覚醒水準の高さにより興奮しやすく,それによって問題行動を取りやすいのではないか,という複雑性PTSDへの理解が不足していた。複雑性PTSDの機序を理解した上での支援を行えず,そのことが措置変更につながったと思われる。このような失敗事例を振り返って考察し,得られた今後の指針は以下の3点である。(1)児童養護施設に入所する以前に児童が問題行動を起こしている場合は,家庭での長期間の反復的な虐待により複雑性PTSDを抱えている可能性を検討する。(2)児童にはまず安心・安全という体験の蓄積が必要であり,その蓄積によって愛着形成を促し,PTSD症状を和らげるという方針をケアワーカーと共有して,児童養護施設での支援を開始する。(3)個別心理面接では,児童の不快な状態が心理士との関係の中でどのように表現され,和らげられたかに着目し,そのような体験が積み重なることを通じて問題行動が緩和していくことを目指す,というものである。
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