特集 村瀬嘉代子1935-2025
尊厳あるものへ――最期までその人らしく生きる支援
扇澤 史子
1
1東京都健康長寿医療センター臨床心理科
pp.151-157
発行日 2025年9月10日
Published Date 2025/9/10
DOI https://doi.org/10.69291/cp25080151
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I はじめに
人が尊厳を保ち,最期までその人らしく生きるとはどのようなことか。そして,そのために,心理職としてどのように支援をすべきか。
日々の臨床のふとした場面で,この問いが立ち現れ,しばしの間,立ち止まることは少なくない。本人の尊厳を保つ支援のあり方について深く考える契機となった,そして今なお後悔とともに心の奥にくすぶり続けている,2つの事例がある。
1例目は女性,2例目は男性で,いずれも約10年前に東京都認知症アウトリーチ事業を通じて支援したケースであり,お二人ともすでに他界されている。女性の事例(Aさん)は,「こうすべきだった」という反省をもとに再構成し,最低限の医療と介護を受け入れつつ,独居生活を継続した架空事例として,すでに他稿(扇澤,2022)で紹介した。ただ,実際の転帰は異なり,葛藤と後悔が残るものであった。
男性の事例(Bさん)は,その重さゆえにこれまで触れることすらできずにいたが,今回初めて取り上げる決心をした。というのも,いずれの事例も,グループスーパービジョン(以下,GSV)において村瀬先生からご指導をいただき,多くの学びを得ただけでなく,その後の自身の臨床においても少なからぬ転機となったからである。

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