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I 身体の時間とは
私たちは,過去を振り返り,未来を思い描きながら,日々時間の流れの中で生きている。意識的にも無意識的にも,これまでの人生がこうだったなあと振り返り,これからこんな風に過ごしたいとイメージを抱きつつ,今という時をなんとか過ごしている。
ふだん頭では,時計で計れる一定のスピードで流れる時間の中を生きていると信じているのだけれど,実際には人によって,同じ人でもその時々によって,時間の感じ方は違うはずである。同じ時間についても「すごく長く感じた」ということもあれば,「あっという間だった」ということもあるし,「長いようで短い感じ」なんてこともある。素早く過ぎ去る時間は濃密な体験を意味しているかもしれないし,じりじりとなかなか進まない時間は,逃れたいけれど逃れられない苦痛な体験を表しているのかもしれない。主観的な時間体験のあり方は,その人がいかに生きているかのひとつの指標になるはずである。
時間は,過去から未来へと流れている。そして,私のこれまでの歴史は私のこれからの生きる姿につながっている。自分の歴史が,たしかに未来につながっていると当然のこととして,感じられるならば,それは豊かでスムーズな時間体験となるだろうし,自分の歴史が不安定で予測不可能なことに満たされていたり,苦悩の連続だったりすれば,未来へとうまく接続せず,ぎくしゃくした苦痛だけが長々と続く不自然な時間体験になるだろう。なんらかの精神疾患で悩んだり生きづらさを感じたりしている人は,それぞれ特有の不自然な時間体験があると考えることができる。
ただ,時間体験は,ことさら意識するよう促されないと気づかないものである。自分がふだんどんな時間を体験しているかは,振り返って考えてみないとふつうはわからない。それでも,一人ひとりの時間体験のあり方は,その人の姿勢や振る舞い,人との関係の持ち方などに現れているはずである。せかせか落ち着かない人,びくびくと何かに怯えている人,つねに全身に力が入り前のめりの人なんかを想像していただきたい。それぞれ,その人特有の生きるペースや,未来への向かい方が,身体のあり方に反映していると解釈してもおかしくはないだろう。
ここではまず,トラウマ,解離,自傷,摂食症という症状を持つ人の創作症例を見ていこう。それぞれの身体のあり方に着目し,そこから彼らの時間体験について考えてみたい(野間,2012)。

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