特集 臨床的時間論―生きた時間の回復と治癒
不登校の臨床から時間を見る
草野 直子
1
1滋賀県心の教育相談センター
pp.550-554
発行日 2024年9月10日
Published Date 2024/9/10
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I はじめに
今日も一本の電話がセンターに入る。かけ手はたいてい不登校の子を持つ保護者であり,こちらは状況を聞き,対象であれば来所を勧める。手続きが終わり,双方が電話を置く。所内では予約日に向け着々と準備が始まる。保護者もまた,おそらくは日付を見ながら電話のやりとりを反芻し,我が子にどう伝えるか思いあぐねているだろう。“時間”が,生まれる。互いに違う場にいながらにして通信上でつながり,近い未来に会おうと約束することで,静かな水面に波紋が広がるように動きが発生する。相まみえ,落ち合う時点に向かう想念が,関係する人々を内側から駆動していく。
筆者は上記の機関において,日々不登校の相談業務に従事している。「不登校」はいくつもの要因からなるきわめて個別的な事態であり,一方でそれまですうっと流れていた暮らしが止まってしまうという点では一様な外観を呈する。本稿では,不登校の臨床から見える時間について,述べたいと思う。まずはすべての臨床実践に通ずるであろう,時間をめぐる諸理論に触れたい。

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