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眼表面は涙液層と上皮層から構成され,涙液層は油層とその直下の液層(水分と分泌型ムチンからなるムチンゲル)から構成される(図1)。そして,涙液層の構成要素である油層(非極性脂質層と両親媒性脂質層の2層から構成される),水分,分泌型ムチン(MUC5AC)および上皮の構成要素である膜型ムチン(特に最も長いMUC16は,Galectin-3と結合してバリア機能に寄与する1))は,角膜上の涙液層の安定性維持に不可欠であり,それらのうち一つでも不足すると涙液層の安定性が低下し,ドライアイを生じる。TFOS(Tear Film & Ocular Surface Society)のDry Eye WorkshopⅡ(DEWSⅡ)によれば,ドライアイは涙液減少型と蒸発亢進型の2型に分けられ,さらにその複合型があるとされる2)。今,世界の流れは涙液油層が液層の水分の蒸発を抑制するという視点に立ち,マイボーム腺機能不全(meibomian gland dysfunction:MGD)を蒸発亢進型ドライアイの代表的な原因疾患としている2)。しかし,涙液油層が液層の水分の蒸発を抑制し得るのか否かについて,DEWSⅡの報告のなかにも議論があり3),涙液油層の異常を原因とする蒸発亢進型ドライアイが果たして存在するのか否かについてもまだ疑問がある。なぜなら,涙液油層が涙液の水分蒸発を防ぐという考えは,実はウサギでの研究4)に基づいているからである。ウサギはヒトと異なり瞬目が極端に少ないため,涙液油層が液層の水分の蒸発を防ぐことは合目的的であるが,ヒトは瞬目が多いため瞬目の度に涙液層が再現性よく角膜の上に再形成されることのほうがより重要と考えられる。実際,基礎研究では,ヒトの涙液油層に蒸発抑制作用があるにしても,ウサギ(水分蒸発抑制率:93%)に比べるとその抑制率は大幅に小さく,6〜8%とする報告もある5)。しかし,現在までのところ,涙液油層機能の一般的な考え方が水分蒸発抑制であり,かつ蒸発抑制がないわけではないことから,ここでは涙液油層の主たる機能を水分蒸発抑制として話を進める。
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