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腸管は人体最大の免疫臓器であると同時に,食物の消化・吸収の場であり,無数の常在細菌,病原性細菌や食餌性抗原に常に曝されている。そこで生体は腸管に特有な粘膜免疫系を発達させることで,病原性細菌に対する生体防御と,常在細菌や食餌性抗原に対する寛容を同時に成立させ,腸管における恒常性を維持している1)。一方で,腸管の恒常性が破綻すると,常在細菌や食餌性抗原に対する過剰な免疫応答が誘導され,炎症性腸疾患(inflammatory bowel disease:IBD)や食物アレルギーの発症・増悪化の要因となることや,病原体に対して易感染になることが知られている2)-4)。さらに,腸管の恒常性破綻が,自己免疫疾患5)や代謝疾患6)などの全身性疾患の発症・増悪化に影響することが知られている。このように全身の生理的機能をも左右する腸管は,“Super Organ”と呼ばれている。近年,次世代シーケンサーや情報解析技術の活用により,細菌叢メタゲノム解析が飛躍的に進展してきた。その結果,難培養性の細菌が大部分を占める腸内細菌の全体像を含めた,詳細かつ包括的な解析が可能となり,粘膜免疫系の発達・制御には,サイトカインなどの生体内分子だけでなく,常在細菌由来の刺激が必要であることがわかってきた1)。このような背景のもと,健常人の腸内細菌だけでなく,IBDをはじめとしたさまざまな疾患患者の腸内細菌についても解析が進められ,IBD患者の腸内細菌には,菌種構成の異常(dysbiosis)が認められることが明らかになった7)。また,IBDのモデルマウスは,無菌環境下では腸炎を発症しにくくなることも報告されている8)。さらに,一塩基多型をマーカーとしたゲノムワイド関連解析(genome-wide association study:GWAS)により同定されたIBD関連遺伝子には,獲得免疫系,自然免疫系,オートファジー,粘膜バリア機構に大別される遺伝子群が多く含まれており9)-12),宿主と腸内細菌の相互作用がIBDの病態形成に関わっていることが示唆されている。以上の知見を根拠として,IBDは遺伝的素因に腸内細菌のdysbiosisを含む環境因子が加わることで発症する,多因子疾患であると考えられている。そこで本稿では,IBDの発症・病態における腸内細菌の影響について,最近の知見を概説する。「KEY WORDS」Crohn's disease,Ulcerative colitis,Intestinal microbiota,Mucosal immunology
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