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ヒト消化管には約1,000種の腸内細菌が100兆個以上存在し,腸内細菌のもつ総遺伝子数は,ヒト遺伝子数の約150倍と見積もられる。腸内細菌は,宿主が摂取した栄養分を利用しながら生息し,他種細菌と宿主と相互に影響を及ぼしながら腸内にエコロジーを形成する。腸内細菌は,感染,短鎖脂肪酸やビタミンの産生,胆汁酸代謝を介して宿主の生理機能や病態形成に寄与する。近年,各種エフェクターT細胞の分化誘導に関わる特定の腸内細菌がヒト消化管で続々と見つかっており,腸内細菌と宿主免疫の関係は看過できない1)。宿主は腸内細菌より正負両側の影響を受けつつ健康を維持しているが,何らかの要因で腸内細菌叢が乱れた場合,宿主の健康状態は危険に曝される。たとえば,アレルギー疾患や自己免疫疾患が先進諸国で漸増しているが,その背景に幼少期の抗生物質乱用や不健全な食生活(高脂質・低食物繊維)による腸内細菌叢の乱れ(dysbiosis)が挙げられる。他にも,肥満,糖尿病,大腸がん,動脈硬化症などの病態は腸内細菌より何らかの影響を受けると考えられており,実際に,これら疾患患者と健常者とでは腸内細菌叢が大きく異なる。肝臓は,門脈を介して消化管と直接つながっており,消化管由来の異物(栄養素,腸内細菌関連物質,サイトカインなど)に絶えず曝露される。生体内に有害因子を流入させないために,肝臓は免疫応答と免疫寛容のバランスを維持しながらファイアウォールとして機能する。肝臓内免疫のバランス破綻は自己免疫疾患を惹起することから,腸内細菌の質および量的変化が肝胆道系疾患の病態に寄与することは想像に難くない。実際に,アルコール性肝炎,非アルコール性脂肪性肝疾患,肝硬変,肝細胞がんなどの肝病態に関わる腸内細菌が矢継ぎ早に報告されている。原発性硬化性胆管炎(primary sclerosing cholangitis:PSC)および原発性胆汁性胆管炎(primary biliary cholangitis:PBC)は胆汁うっ滞性肝疾患であり,免疫難病に分類される。PSC,PBCいずれもその病因は不明であり,病態機序の解明が必要とされる。近年,これらの患者の腸内細菌叢解析が進められており,胆汁うっ滞性肝疾患における腸内細菌の役割が明確になりつつある。本稿では,近年,PSCおよびPBC患者サンプルで行われた腸内細菌叢解析と病態形成機序における腸内細菌の役割について概説する。「KEY WORDS」原発性硬化性胆管炎,原発性胆汁性胆管炎,ヒトフローラ化マウス,Klebsiella pneumoniae
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