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はじめに
現在,多くの医療従事者が頻回な手指衛生による手荒れに悩まされており,看護師の80%以上が手荒れを経験しているとする報告もある1,2)。医療現場における手指衛生についての米国疾病管理予防センター(CDC)ガイドライン2002では,皮膚へのダメージは皮膚細菌叢の変化を起こし,ブドウ球菌やグラム陰性桿菌の定着を増加させるとしている。このため,手指衛生に関連した刺激性接触皮膚炎の発生を最小限に留めるために,医療従事者ヘハンドローションまたはクリームを提供することを推奨している3)。ハンドローションまたはクリームは角質層構造の修復,水分補給,脂質層の再生など,皮膚のバリア機能を維持または回復させることを目的として使用され,これにより手荒れが改善する例もある。しかし,手指衛生が頻回に求められる集中治療領域などでは,それらの対策を行っていても手荒れに悩む医療従事者が多く存在する。
CDCガイドラインでは,手指に目に見える汚れがある場合は抗菌石鹸あるいは非抗菌石鹸と流水による手洗いを推奨し,手指に目に見える汚れがない場合や体液で汚染されていない場合は,エタノールベースの手指消毒剤(以下,エタノール製剤)による擦式手指消毒を推奨している3)。エタノール製剤は小型の容器で携帯可能なことから最も広くかつ頻回に使用されるが,エタノール成分に対して接触皮膚炎をきたし,使用困難な医療従事者が一定数存在する。この場合,クロルヘキシジングルコン酸塩製剤,クロルヘキシジングルコン酸塩エタノール製剤,ポビドンヨード製剤,塩化ベンザルコニウム製剤などが代替として多く用いられる。また,最近ではオゾン水を用いた手指衛生も可能となっている。しかし,それらの代替の手指消毒剤がエタノール製剤に較べて角質細胞への刺激性が少ないかについてはほとんど検討されていないのが現状である。本稿では前述の各種の手指消毒剤について,ヒトの培養表皮細胞を用いて皮膚への刺激性の有無について検討した結果を示しながら,刺激性がより少ないと考えられる手指消毒剤について述べる。
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