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はじめに
Norovirus(ノロウイルス)やClostridium(Clostridioides)difficile[クロストリジウム(クロストリディオイデス)・ディフィシル:CD]による感染症は,医療関連嘔吐下痢症の原因として頻度が高く,その伝播は医療安全上の大きな問題となっている。これら微生物の感染経路は接触感染が主体であり,汚染された環境が感染源となりうることから,伝播防止対策として適切な環境整備は必須である。
ノロウイルスの医療施設内での感染経路は,多くが汚染された環境に触れた手指からの接触感染であるが,嘔吐時に口腔内に付着したウイルス粒子が飛散して飛沫感染を引き起こすことや,嘔吐物の不適切な処理によりウイルスを含んだ粒子が空気中に飛散浮遊して空気感染(塵埃感染)を引き起こす1)ことなど,多様な感染経路を持つことが知られている。ノロウイルスの感染力は非常に強く,10~1,000個のウイルス粒子を摂取することで成立し,潜伏期間は12~48時間,感染性を有する期間は症状消失から48時間とされるが,長い場合は1週間から1ヵ月間以上に渡りウイルスを排泄する2)。
CDは,芽胞を形成する嫌気性グラム陽性桿菌で,抗菌薬関連下痢症・腸炎や偽膜性大腸炎の原因菌となる。その感染症(CDI)は,抗菌薬や抗がん薬の投与により,腸内細菌叢の撹乱された状態となることで,腸管毒素(toxin A),細胞毒素(toxin B)のいずれか,またはその両方を産生するCDの過増殖により引き起こされる。欧米では,第3の毒素である二元毒素(binary toxin)を産生する強毒株(027型,078型)が広がっており,重篤な合併症や死亡例が増加している。米国疾病予防管理センター(CDC)は,米国では年間約50万人がCDIを発症し,診断から30日以内に約29,000人の患者が死亡しており,そのうち約15,000人の死亡がCDIと直接関係していたと述べている3)。偏性嫌気性菌であるCDは,棲息場所である腸管内から出て酸素に曝露されると,活動型(増殖したり,毒素を産生する)は死滅する。しかし,芽胞を形成することで,本来棲息が困難な環境であっても休眠状態となり長期間生存し続ける。この芽胞は,100°Cの流通蒸気や煮沸などの物理的消毒法で死滅せず,多くの消毒薬に抵抗性を示す。
これらの2つの微生物に共通する特徴として,消毒薬への抵抗性が高く,通常の環境整備で使用している第4級アンモニウム塩や消毒用アルコールでは,十分な感染対策とはならないことがあげられる。そのため,感染拡大の防止には,標準予防策に適宜,接触予防策の追加,さらに下痢・嘔吐症状のある患者の隔離などの感染対策に加えて,汚染区域の適切な消毒が必要である。
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