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栄養学と管理栄養士
「栄養学」は,18世紀後半,ヨーロッパに誕生した生命科学の一分野である.食物から摂取するエネルギーと各種栄養素の生理作用を解明し,食事と人間の生命・生活との関係性を明らかにしようとしている.つまり,栄養学は,食物を摂取,消化し,栄養素を吸収,代謝する現象を明らかにし,その実践により人々の健康の保持,増進,さらに疾病の予防,治療,回復へ貢献することを社会的使命にしている 1).この実践活動のリーダーとして「栄養改善の指導」をしているのが管理栄養士・栄養士である.
人間は,日常的に摂取する食物を栄養素の供給源としている.食物は,栽培や飼育,さらに加工したとしても,本来自然界に存在する動植物なので,個々の食物は人間に栄養素を供給してくれるが,人間の健康を保障するために都合よく栄養素を含有しているわけではない.したがって,食物の選択が偏り,栄養素の摂取に過不足が生じると各種の栄養素の欠乏症や過剰症が生じ,長期に及ぶと死に至る.人間は,歴史的に,飢餓,たんぱく質・エネルギー欠乏症,脚気,壊血病,夜盲症,甲状腺腫等の栄養欠乏症と,肥満,非感染性疾患(生活習慣病)等の栄養過剰症の問題に悩んできた.しかも,このような問題は,今でも存続している.
栄養学が日本に導入されたのは,1887(明治20)年,政府が「ドイツ医学」の導入を決定したときに,その一部として紹介された.政府は,国民の体位向上のために栄養学の活用を考え,1920(大正9)年に内務省の付属機関として「国立栄養研究所」を設置し,1945(昭和20)年の終戦直前に「栄養士規則」を制定した.その目的は,①栄養士の身分,業務を国家的に確定し,国民栄養に対する指導の統一と徹底を図ること, ②食料事情を踏まえて, 戦力増強の基盤である工場,事業所,食料供出後の農村等に対する栄養の指導を強化することであった.その翌年,「国民の栄養指導を業とするもの」と規定されて「栄養士法」が制定され,1952(昭和27)年の「栄養改善法」により,学校,産業,病院,福祉施設等の給食施設に栄養士が配置された.
1960年代になると,農業生産物や輸入食料の増大,さらに経済や流通の発展等により,食料不足による低栄養は解決したが,一方で食事の欧米化による肥満や非感染性疾患(生活習慣病)が増大した.高血圧,動脈硬化,虚血性心疾患,脳梗塞,糖尿病等の非感染性疾患は過食,運動不足,肥満等の過剰栄養による代謝障害が誘因となり,その対策として医学教育を受けた栄養士の教育,養成が必要になったのである.1962(昭和37)年4月の参議院社会労働委員会・栄養審議会から栄養士の上位資格として「管理栄養士制度」が提案され,9月には国会で承認された.しかしながら,非感染性疾患の成因や対策の科学的解明がまだ不十分であったために,管理栄養士の役割や業務が定まらず「登録性」として放置された.
1997(平成9)年,きたるべき新世紀を前に「21世紀の管理栄養士等あり方検討会」が厚生労働省に設置され,その成果として「生活習慣病の発症と進行を防ぐためには,食生活改善が重要であり,栄養指導には,栄養評価・判定に基づく高度な専門知識・技能が求められる.「人」を対象とする栄養専門職種として位置づけられるように,管理栄養士等のあり方を総合的に見直していくことが必要である」と結論付けられた 2).
2000(平成12)年,栄養士法の一部改正が行われ,管理栄養士が「登録制」から「免許制」になった.受験資格の見直しが行われ,管理栄養士の新たな定義と業務が明確にされたのである(表).
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