知っておきたい神経科学のキィワード
23.運動錯覚
金子 文成
1
1東京都立大学人間健康科学研究科理学療法科学域
キーワード:
運動感覚
,
運動錯覚
,
自己意識
,
vection
,
kinesthetic illusion
Keyword:
運動感覚
,
運動錯覚
,
自己意識
,
vection
,
kinesthetic illusion
pp.68-74
発行日 2024年1月15日
Published Date 2024/1/15
DOI https://doi.org/10.32118/cr033010068
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キィワードの定義・概念
錯覚とは,「知覚が刺激の客観的性質と一致しない現象」 1)である.精神医学では,「実際の知覚対象をゆがんだ形で知覚すること」 2)とされる.この包括的定義を運動錯覚にあてはめると,「運動錯覚とは,被験者が自動的にも他動的にも運動していない状態であるにもかかわらず(客観的事実),運動していると知覚していること」といえる.運動の錯覚について学問的に扱われる話題は,全身の姿勢または移動に関連する(全身運動の)錯覚,および四肢体節における運動感覚の錯覚に大別される.それらの両方を含めて,英語では,
・illusion of movement
・illusion of motion
と表現される.
特に,全身運動の錯覚(全身運動錯覚)に対しては,20世紀のある時期から"vection"という用語が用いられるようになった.また,四肢体節の運動錯覚(四肢運動錯覚)は,"kinesthetic illusion"と表現される.体性感覚のうちで運動感覚(または筋に由来する感覚)を"kinesthesia"といい,1970年代以降,運動感覚の要素である位置覚と運動覚が筋からの求心性入力に大きく依存した知覚であることがわかってから使用されることとなった用語である.
運動錯覚については,歴史上明らかに全身運動錯覚が先行して哲学的話題となり,生理学的考察に進み,認知神経科学的に解析されてきた.このため本稿では,全身運動錯覚が学術的に扱われてきた歴史をひも解きつつ,リハビリテーション臨床で応用されている四肢運動錯覚の現状に言及する.
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