特集 人口問題の焦点
人口錯覚
館 稔
1
1厚生省人口問題研究所総務部
pp.54-57
発行日 1956年1月15日
Published Date 1956/1/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401201640
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『私が筆を取ろうとしている現在,1ドルはおよそ70セントである』―統計学や経済学でおなじみのI.フイツシヤは,その名著『貨幣錯覚(マネー・イルージヨン)』を,こういう一見奇妙な文章で書き起している。それは1927年のことであつた。1927年といえばアメリカの経済界にはどこか無気味な嵐を含んだ黒雲が去来していた。あの世界の経済界を混乱の渦中に投じた世界恐慌の火の手が,ウオル街の一角に立ち上つたのが1929年の秋であつた。
不幸にして,戦後貨幣価値の激変で苦しんだ今日のわが国では,現在の1,000円が戦前の1,000円とどんなに違つているかということを誰もがよく知つている。しかし,戦前の1,000人の人口と現在の1,000人の人口とがどんなに違つているかということを,われわれは余りよく知つていないような気がする。
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