iPS細胞を用いた心不全・心筋症の病態メカニズム解明と薬物スクリーニング

Elucidation and drug screening of the pathophysiological mechanisms of heart failure and cardiomyopathy using iPS cells

　心不全を有する患者から樹立した患者特異的iPS細胞には，疾患に関与する遺伝子変異を含むゲノム情報が再現されており，それらを心血管構成細胞に分化させることでin vitroの疾患モデルとして利用することができる．組織の生検および培養が容易でない心血管領域において，疾患特異的iPS細胞から分化させた各種細胞は非常に有用な実験リソースであり，すでに病態解明や治療薬候補探索に貢献してきた．筆者らも，難治性の疾患であるLMNA変異拡張型心筋症（DCM）患者からiPS細胞を樹立し，エピゲノム変化の解析やDNA損傷を軽減する化合物探索を実施して成果を報告してきた．さらに近年，iPS細胞由来心筋細胞（iPSCM）の成熟化を促進する手法の開発，心線維芽細胞などの非心筋細胞の誘導プロトコールの確立と解析，またそれらの共培養下での表現型解析，オルガノイド技術の発展などによって心疾患のin vitroでの再現の幅が広がっており，新規の心不全創薬および個別化医療への貢献が期待される．