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はじめに
昨今の医学研究の進歩により,これまで原因不明とされてきた心疾患の一部では,心筋症や不整脈疾患,先天性心疾患をはじめとして数多くの原因遺伝子の解明が相次いでいるが,依然として原因解明に至らない症例が多く存在している.病態解析の研究の対象となる心筋細胞は容易に採取できる細胞ではなく,また,出生後には分裂増殖しないため,これまで疾患の病態解明においては培養細胞やモデル動物を用いた研究が中心であった.
1981年に自己複製能と多分化能を持つ胚性幹細胞(embryonic stem cells;ES細胞)が,マウスの初期胚である胚盤胞の内部細胞塊から樹立されて以来1),遺伝子操作を用いて多くの疾患モデルマウスが作成され,また1998年にはヒトにおいてES細胞が樹立され2),疾患モデル研究の発展が期待された.しかし,培養細胞やモデルマウスでは変異の表現型の個人差や種差が存在することから,実際の疾患患者の病態の再現において不十分と言わざるを得なかった.2006年に京都大学の山中伸弥教授らが,マウスにおいてES細胞と同等の幹細胞の性質を持った細胞株の樹立に成功し3),induced pluripotent stem cells(iPS細胞)と命名した.2007年にはヒトiPS細胞の樹立に成功し4),近年新たな移植細胞のソースとして注目を集めているが,それと同時に疾患モデルの作成の可能性も注目されている.既に神経疾患や血液疾患の分野では疾患特異的ヒトiPS細胞樹立の報告がなされており5~10),今後心疾患の分野においても病態解明のために疾患特異的ヒトiPS細胞の樹立が期待される(図1)11).
本稿では,疾患特異的ヒトiPS細胞の現状,および心疾患の病態解明に寄与すると考えられる有用性について言及する.
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