人工シナプスオーガナイザーによる小脳失調・認知症・脊髄損傷への治療

Therapeutics for cerebellar ataxia, dementia and spinal cord injury by synthetic synapse organizers

　神経細胞同士のつなぎ目であるシナプスの破綻はさまざまな精神・神経疾患の原因となることから，シナプスの異常を是正する方法が求められていた．シナプス形成を制御する分子としてシナプスオーガナイザーが数多く同定されてきたが，近年の構造生物学的な解析により，シナプスを形成・維持する構造的分子機構が明らかになってきた．生体内で発現するシナプスオーガナイザーの構造的知見をもとに，さまざまな神経回路において強力に興奮性シナプスを引き起こすことができる人工的なシナプスオーガナイザーCPTXが新たに開発された．シナプスの破綻による疾患として小脳失調，アルツハイマー病，脊髄損傷の疾患モデルマウスに対してCPTXを局所投与すると，数日以内にシナプスが再形成され病態が改善したことから，人工シナプスオーガナイザーによるシナプスの形成を標的とする治療戦略が見出された．さまざまな精神・神経疾患に対して，シナプスを再接続するという新しい治療法として展開されることが期待される．