連載 ケースから学ぶ臨床倫理推論・21
終末期でない場合の人工呼吸器の中止
門岡 康弘
1
Yasuhiro KADOOKA
1
1熊本大学大学院生命科学研究部生命倫理学講座
キーワード:
治療拒否
,
ALS(筋萎縮性側索硬化症)
,
人工呼吸器
,
意思決定支援
Keyword:
治療拒否
,
ALS(筋萎縮性側索硬化症)
,
人工呼吸器
,
意思決定支援
pp.1175-1178
発行日 2025年9月20日
Published Date 2025/9/20
DOI https://doi.org/10.32118/ayu294121175
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Case ALS患者の治療拒否
患者Aは50代の男性.数年前にALS(amyotrophic lateral sclerosis;筋萎縮性側索硬化症)の診断を受けた.症状は次第に進行し,すでに自力での移動や排泄は困難である.球症状も進行し,構音そして嚥下の機能低下も顕著であった.一方で認知機能は保たれ,視覚や聴覚など感覚の異常を示す兆候はない.訪問介護および看護サービスを活用し,NIV(non-invasive ventilation;非侵襲的人工換気)を間欠的に利用しながら自宅療養を継続している.
今回,Aは中等症肺炎から呼吸不全状態に陥り,入院した.10日間の経口気管挿管,人工呼吸器管理や抗生剤投与などの治療を受け,肺炎は軽快し,人工呼吸器離脱の準備が進められている.鎮静薬の中止により良好な覚醒は得られるが,自発呼吸は十分に回復しない.上気道筋および呼吸筋の障害,酸素化の維持および痰の喀出・吸引を考慮すると,生存期間だけでなくQOLの確保のために気管切開と侵襲的呼吸補助が望ましいと担当医は判断している.一方,Aは文字盤を用いて,気管チューブの抜去と人工呼吸器離脱を求めた.そして,気管切開術は受けないという意思を表明した.

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