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Case 進行期難治がんにおける薬物療法に関する医学的判断と,患者の自律尊重における積極的責務を考えるケース
患者Aは40代の女性で仕事はパティシエである.夫は急逝のため他界し,未成年の長女,両親と同居している.夫との死別後から周囲との交流が途絶えがちになっていた.腹部が膨隆してきたことを長女に指摘され,B総合病院を受診するも仕事が多忙であり,以降受診が途絶えてしまった.半年後,両足の浮腫と息切れが出現し職場スタッフからも病院受診を勧められ,両親と一緒に同病院を再診した.医師から卵巣がんが強く疑われると言われ,手術をして化学療法を行う予定となった.手術が行われ,進行期卵巣がんの診断となり化学療法が開始された.仕事で来院が遅れることも多く,化学療法室では口数が少なく医療者との会話も少なかった.4カ月間の化学療法終了後から2カ月が経過した頃,腹部の張りが改善しないことから両親と一緒に同病院を再診したところ卵巣がんの再発がみつかり,化学療法の再開が提案された.しかしながら,患者Aは化学療法も腹水穿刺も拒否した.さらに2カ月が経過し,腹部の張り感と息苦しさが強くなり定期外来を待たずに緊急入院となった.C医師から現状と今後の病状経過について詳細に説明がされるも,化学療法の同意が得られなかった.C医師は化学療法をなぜ拒むのかを質問したが,患者Aは「自分が決めたことだから」と多くを話さなかった.しかしながら,腹部の張り感が強くなり腹水穿刺については同意が得られ抜水した.多量の腹水が抜水されるも,患者Aは「あまり溜まっていなかったでしょ.無理に抜かなくてもよかった」と話した.あらためてC医師から詳細な病状説明があり化学療法を予定していることが伝えられたが,患者Aは長女との生活の様子など,治療以外の話題を話していた.C医師はなぜ治療を拒むのか,治療をしなければ病状の進行は抑えられなくなる,患者の意向を確認するにはどうしたらよいかと悩んだ.またD看護師によると,腹水を抜いてから患者Aは少し会話をしてくれるようになったが,病気のことは話したがらないと言う.治療効果が期待しづらい状況ゆえに病気の話をしたがらないのか,あるいは他の理由があるのか,と考えていた.
治療チーム内でのカンファレンスが実施されるも解決策が見出せず,C医師より臨床倫理コンサルテーションチームに「患者Aの病状は進行しており,化学療法を行うことで少しでも進行を抑えられるかもしれないが,患者Aは化学治療を拒否している.病気の進行が速いため化学療法を進めたいが,同意が得られない場合,どのように方針を検討し決定していけばよいか?」と問い合わせがきた.どのように対応したらよいか.

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