Japanese
English
TOPICS 認知神経科学
霊長類の柔軟な意思決定を支える神経回路
Neural circuit mechanism underlying flexible decision-making in primates
佐々木 亮
1
,
伊佐 正
2
Ryo SASAKI
1
,
Tadashi ISA
2
1自然科学研究機構生理学研究所システム脳科学研究領域多感覚統合システム研究部門
2京都大学大学院医学研究科神経生物学分野
pp.694-695
発行日 2025年5月24日
Published Date 2025/5/24
DOI https://doi.org/10.32118/ayu293080694
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意思決定に関与する神経回路への着目
ヒトを含めた動物は,生存のため自然環境に柔軟に適応し,戦略的に行動を選択する必要がある.たとえば,人生の岐路やスポーツ戦術,採餌行動などにおいて,動物は,生得的にリスク回避的に行動するが,報酬を得るためには,時としてリスクを受け入れる必要がある.このような状況下において,リスク(失敗確率)とリターン(報酬)のバランスをどのように取るか,すなわち目標達成のために「高い失敗確率・高い報酬量(ハイリスク・ハイリターン:HH)」「低い失敗確率・低い報酬量(ローリスク・ローリターン:LL)」のいずれの行動を選択するかは,その場面・状況や自他の環境などに応じた柔軟な意思決定に基づくものとなる.しかし,報酬とリスクの情報を統合し,そのバランスを柔軟に制御する脳神経回路のメカニズムについては不明な点が多く,この解明に向けたヒトの脳神経回路を直接観察できる技術はいまだ存在しない.そこで筆者らは,ヒトに近縁の霊長類モデルであるマカクサルにおいて,意思決定に関わる個々の神経回路を特定し,意思決定の外的なコントロールを可能にする手法として光遺伝学的技術を取り入れ,意思決定に関与する神経回路を明らかにすることを試みた.この技術に,計算論的神経科学の手法を組み合わせることで,ヒトの精神神経疾患の症状を脳内神経回路ごとの機能として説明でき,安全な治療戦略(たとえば依存症にみられる過度の嗜好性など,柔軟な意思決定機構の障害が原因のひとつとして考えられる疾患への治療戦略等)を開発する一助となり得ると考えた.
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