サルとヒトの比較産科学・7
霊長類の性と生殖(Ⅱ)
大島 清
1
1京都大学霊長類研究所
pp.497-503
発行日 1980年7月25日
Published Date 1980/7/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611205739
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3.サルにも性のよろこびはあるか
何人かの若者に聞いてみたことがある。「サルとヒトの性って,どこがちがうんだろう」。大体同じ答がかえってきた。ヒトは性を楽しむことができる,というのである。全く正しい,と私は思う。大脳化現象の頂点に立った人類は,その英知で性を多様化し,いくつかの性革命をおこなってきた。開発国,文明国ほど多様,複雑だ。未開発国の多くでは,性は末だに単純で,素朴の域を出ないものが多い,とも言える。サルなみとはいえないが,生きることや,種族を維持してゆくことに精一ぱいなのである。それでは,サルに全く性のよろこびはないのかというと,それは大きなまちがいである。
ふつうのサルにも性のクライマックスのあることは学者によって証明されている。たとえば,メスアカゲザルの腟内にペニス類似の棒を入れて人工的に刺激して反応をみる。マスターズ=ジョンソンらがヒトの女性のオルガズムに達したときに見たと同じ腟の痙攣が観察できたという1)。ベニガオザルではメスが腕を痙攣させるし,腟がペニスをしめつけ,オスガ奇声をあげるらしい2)。ニホンザルのメスはクライマックスのときオスを振返ることがある(図1)。ニホンザルやアカゲザルの交尾は,反復マウンティングするタイプだが,1回のマウンティングに要する時間は数秒からせいぜい10秒以内で短い。これを数回繰返して興奮が累積して射精する。
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