サルとヒトの比較産科学・8
霊長類の性と生殖(Ⅲ)
大島 清
1
1京都大学霊長類研究所
pp.699-707
発行日 1980年10月25日
Published Date 1980/10/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611205775
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8月のはじめ,東大の伊藤セツ子さん,日赤医療センターの平沢美恵子さんの御依頼で,東京・飯田橋の助産婦会館で話をする機会があった。そのときにも言ったのだが,ヨーロッパから帰ってまだ数日しか経ていず,私は時差ぼけであった。時差ぼけというよりはヨーロッパぼけと言ったほうが正しいだろう。パリ,バルセローナ,シッチェス、マドリッド,トレド,ローマ,ポンペイ,フィレンツェ,ヴェネチア,ミュンヘン,ハノーバー,ベルリン,東ベルリン,ハンブルグ,ケルン,ハイデルベルグ,フランクフルト。ドイツの町を除いて,通りから露地へ,露地から大通りへ,ジョギングできたえた足で,私は歩きまくった。いわゆる旅行業者の「ツアー」という,上っ面だけを撫でまわす旅を私は好まない。例えば,バルセローナのうす暗い露地のローソクの灯ったレストランに,ほんとうの庶民のさんざめきがあったし,マドリッドのプラド美術館の前の芝生にいつまでもねそべって夜のとばりを待つこともできた。
そしてトレドの曲りくねった細い露地から見上げると真向いに,白い2階のテラスからカテドラルの尖塔を見上げながら,いつまでも泣いていた若いスペイン女の横顔があった。私はまた,上に挙げたいろんな町でジョギングすることを忘れなかった。少なくとも私の通った町は夜はおそいが,朝はほとんど眠っている。私は5時に起き,5時半か6時頃から40〜60分走った。
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