サルとヒトの比較産科学・6
霊長類の性と生殖(Ⅰ)
大島 清
1
1京都大学霊長類研究所
pp.412-419
発行日 1980年6月25日
Published Date 1980/6/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611205718
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1.まえがき
前号でお話したように,今回と次回は,夏休みを利用して,ひと息入れて,そっと霊長類の性をのぞいてみることにする。
「性」と「生殖」は下等動物では同義語に等しい。性イコール生殖である。つまり生殖を契機としてオス・メスの行動に変化がおこる。たとえば鹿。繁殖の季節が近づくと牡鹿の頭部に双角が芽生えてくる。気に入ったメス鹿の争奪に必要な角(つの)である。映画「バンビ」のワンカットを思い出されるとよい。オットセイもそうだ。彼らは北海の島で子を産むが,それに先立つこと数か月前から,何千,何万頭の大群が北の海に向かって大移動をする。魚も同じだ。鮭を例に挙げよう。鮭の繁殖周期は4年に1度。それも一生のうちで1回きりである。たった1度だけ産卵をして生殖の役目を果たすとあの世行きというわけだ。鮭は産卵のために必ず自分の生まれた川に帰って来る。これをサケの「母川回帰」というのだが,サケの一生は4年に1度の生殖にあるといっても過言ではない。
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