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光遺伝学(optogenetics)とは,藻類などで見つかった特定の波長の光によって開閉するイオンチャネルやトランスポーターなどの膜タンパク分子を,遺伝子工学の手法を用いて神経系の特定の種類の神経細胞に発現させ,光によってそれらの神経細胞の活動を亢進または抑制する技術である。中枢神経系の特定の種類の細胞の活動をミリ秒オーダーの時間解像度で制御できることから,神経回路機能の解析手法として過去数年間で爆発的に広まった。特に遺伝子改変動物の作製が比較的容易で,小型の動物であるマウス,ゼブラフィッシュ,線虫,ショウジョウバエなどでは特定の細胞種にこれらの光感受性分子を発現するトランスジェニック動物を作製する,ないしはウイルスベクターを用いて遺伝子導入を行うことで行動を制御することが可能となり,従来は解明が困難だった多くの神経回路機能に関する重要な問題が因果律的な論証を伴う形で解明されつつある1,2,3)。
一方で,より複雑で高次な脳機能の解明を目指す研究者や将来ヒトの疾患治療に向けたトランスレーショナルリサーチを推進する立場からは,このような光遺伝学の技術を霊長類モデル動物においても実現したいと考えるのは自然なことであろう。しかし,現実にはマウスのような小型動物で可能であったことを霊長類で実現することは,それほど容易ではないことが広く認識されつつある。一つには,霊長類では遺伝子改変動物の作製が容易ではないので,ウイルスベクターを用いで遺伝子導入を行う必要がある。そこではトランスジェニック技術とは異なり,遺伝子導入効率が問題となる。巨大な脳を有する霊長類において行動制御を行おうとすれば,広い領域の多数のニューロン群に高い効率で遺伝子導入を行い,光感受性膜タンパク質分子を形質膜に発現させる必要がある。また,行動制御にまで至らなくても,特定の細胞種のみに光感受性タンパク質を発現させることができれば,記録している細胞種の同定に使うことができる。しかし,特定の神経細胞種に選択的に遺伝子を発現させるためには,プロモーターの選択が重要であるが,現在汎用されているレンチウイルスやアデノ随伴ウイルスベクターでは,搭載できる遺伝子配列の長さに限界があることから,トランスジェニック技術を用いて可能になっているような細胞種特異性を発揮させるようなことは一部を除いてほとんど実現できていない。
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