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はじめに
私たちが暮らす福島県浜通り地域(いわき市を含む福島県の沿岸部の市町村)は,東日本大震災による地震・津波や,原発事故により,甚大な人的被害と生活環境の喪失など,多大な影響を受けました。生活環境や世帯構成の急激な変化により,相当のストレスを抱えながら,異なる価値観が露呈した地域での生活において,いわゆる分断や軋轢といった悲しい状況にも直面しました。状況は変化し続けていますが,災害は終わってはいません。大きな混乱のなか,こどもたちは,しなやかに順応しながらも,周りにいる大人たちの大きな混乱も目の当たりにしつつ,さまざまな影響を受けてきたと思います。近年,日本全体で,発達障がいやいわゆるグレーゾーンの子が増えている,ともいわれていますが,私たちが暮らす地域では,もともとの特性からの影響だけではなく,災害後の困難な環境,社会の混乱の影響を受けた結果,困り感を抱えていることがあるかもしれません。困り感を抱える子たちの言動が,大人たちには「困った子」に見えてしまい,保護者たちが子育てに苦しさを感じてしまったり,学校の先生方も対応に苦慮し,多大なストレスを抱えたり,ということも少なくないように感じます。その結果,子らに対する虐待的な対応がひき起こされてしまうケースもあります。私たち「はまどおり大学」では,こうした環境のなか,すべてのこどもたちが生きやすい地域を目指し,「はまどおりサポートちるどれん事業」(通称:はまちる)を展開しています。具体的には4つの柱,① 勉強会:地域全体で発達障がいなどの特性の理解を深める,② こども対話:こどもたちの意見表明権や参画の実現,③ はまちるーむ:悩みを抱える方が気軽に相談できる場,④ 連携:困っている子やその周囲にいる大人を適切な関係機関につなぐ,などを行っています。この活動を通して,誰もが自分らしく生きられる地域を目指していきたいと考えています。
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