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序説
抗加齢遺伝子サーチュインを取り巻く渦(イタリア語でボルティーチェ=VORTICE)は,腎臓への治療応用までの道のりを考えると,寄せる波は抗加齢による腎老化の抑止,返る波は ① 抗酸化や抗老化に伴う癌化リスク,② 実際の治療ツールとしてインスリン分泌やインスリン抵抗性を解除することで,インスリン作用による肥満を惹起する可能性,③ ホットフラッシュや肝障害リスクなども考慮が必要で,1方向性の波としてではなく,多面的な考察を必要とする渦波がその実像である。まず,動物モデルでもニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(nicotinamide adenine dinucleotide:NAD)低下に対して,NADそのものではなく,NAD前駆体のニコチンアミドモノヌクレオチド(nicotinamide mononucleotide:NMN)やニコチンアミドリボシド(nicotinamide riboside:NR)を補充するほうが,病態抑止に効果的とされてきた主な理由の1つとして,NADが体外から体内に投与された際に,NAD分解の代謝経路で活発な腸内細菌にNADが分解されてしまうことなどで説明されてきた。しかし今もって,ヒトにおけるNAD代謝物の正確な生体内分布すらキャプチャーされているわけではなく,このような渦を「禍を転じて福とせよ」とする手段がまず必要である。NAD代謝物そのものはヌクレオチドの小分子であるため,容易に分解生成を繰り返す点も,正確な質量分析の構築がいまだ困難を伴う理由である。しかし,まずサーチュインという酵素,蛋白分子を把捉することが,その実像に迫る有用手段であり,今回,腎サーチュインの筆者らの基礎研究成果などから,今後の腎老化をサーチュインで抑止するための,われわれに課されたテーゼを考察したい。

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