Japanese
English
- 有料閲覧
- Abstract 文献概要
- 1ページ目 Look Inside
- 参考文献 Reference
はじめに
多発性囊胞腎(PKD)患者は,典型例では両側の腎臓に多数の囊胞が形成され,それら多数の囊胞のサイズが経年的に増大し,腎臓のサイズも増大する。何も知らない人が,患者の腹部CTをみれば,PKDとは腫瘍性疾患と考えても不思議はない。実際,囊胞を取り巻く尿細管細胞の増殖スピードは増加しているが,その一方で囊胞内部は腫瘍のように細胞が詰まっているわけではなく,なかには水が入っている。もちろん腎囊胞はほかの臓器に転移するわけではない。これらのことから,PKD研究の重鎮,Dr. Jared Granthamは,PKDを “neoplasia in disguise”(腫瘍もどき)と名づけた1)。この腫瘍もどきの責任遺伝子はがんにかかわる遺伝子に違いないと研究者たちが考えても不思議ではない。実際,多くの遺伝学の研究者が,PKDの責任遺伝子は細胞の核で働く転写因子であろうと想像していた。ところが,1994年と1996年にcloningされたPKD1およびPKD2は,それぞれpolycystin 1(PC1)とpolycystin 2(PC2)という膜蛋白をコードしていた。PC1とPC2は,coiled-coil domainで互いにcomplexを作っている。PC2は非選択性のカチオンチャネルとして働き,PC1とPC2は,何らかのセンサーとしての機能をもっていると考えられている。2002年にcloningされた,常染色体潜性(劣性)多発性囊胞腎(ARPKD)の原因遺伝子PKHD1もやはり,500kDaを超える巨大な膜蛋白をコードしていた(図1)2)。PKDの主要な原因遺伝子が膜蛋白であることから,細胞外から何らかの情報を受け取り,細胞内にその情報を伝えることが想定され,その情報がわかれば,PC1およびPC2の細胞内の機能が判明し,治療法もおのずとわかるはずであった。しかし,現在判明しているPC1とPC2がかかわる細胞内情報伝達は図22)に示すように膨大で複雑であり,とても与えられた誌面ですべてを網羅することは困難なほどである。
© tokyo-igakusha.co.jp. All right reserved.