特集 Onco-nephrology ~腫瘍学と腎臓病学の融合~
5.分子標的治療薬と腎毒性 ~蛋白尿と高血圧~
太田哲人
1
1都立駒込病院腎臓内科・医長
pp.2079-2085
発行日 2016年9月1日
Published Date 2016/9/1
DOI https://doi.org/10.20837/1201609085
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分子標的治療とは,体内の特定の分子機能を選択的に抑えることにより疾病を治療する方法である。癌治療分野においては,より分子選択性の高い新薬が次々に開発され,分子標的治療薬の役割は拡大しつつある。しかし一方で,有効な治療薬であっても予期せぬ副作用を発現する薬剤もあることが判明してきた。 本稿では,分子標的治療薬の副作用の一つとして蛋白尿,高血圧といった腎毒性を持つ薬剤に焦点を当てる。分子標的治療薬のうちで現在までに腎毒性を持つことが報告されている代表格は,抗血管内皮細胞増殖因子(VEGF)薬である。ベバシズマブに関するメタアナリシスの結果からも,特に抗VEGF薬治療は高血圧,蛋白尿の有意な関連因子であることが推察される。高血圧の原因は,VEGF作用阻害による血管内皮の内因性NO(一酸化窒素)合成の低下と,末梢細小血管床の減少などによる末梢血管抵抗の増加が考えられている。 蛋白尿の原因としては,糸球体上皮細胞のVEGF産生が阻害されることに由来する糸球体構造と,濾過機能の破綻が推測されている。ベバシズマブ,スニチニブ投与例においては,ネフローゼ症候群や糸球体微小血管症を発症することが報告されている。対策は,定期的な血圧測定と蛋白尿検査による早期発見と,降圧剤の積極投与による十分な血圧コントロール(腎庇護療法)であり,腎臓専門医との連携による治療も必要である。