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はじめに
麻酔科は全身管理を基本とする臨床的特徴を有し,循環,呼吸などそれぞれの分野で麻酔科学の発展に資する研究が行われている。神経領域研究としては,集中治療領域ではせん妄,ペインクリニックでは慢性疼痛がそれぞれ代表的な対象として該当するが,一般手術麻酔領域では具体的に以下のような研究テーマが挙げられる。
・術後の認知機能障害
・幼若動物での成長後の学習障害
・術後の悪心・嘔吐
・麻酔薬の作用メカニズム
もちろん上記以外にもさまざまなテーマがあることを理解しているが,一方で一般手術麻酔領域における神経科学研究は,せん妄や慢性疼痛と比較して他分野との協働が少なく,論文引用数にも限界があり,総じて閉鎖的な研究状況であるように見える。せん妄研究では,精神医学,リハビリ医学,神経生理学らとの協働があり,慢性疼痛研究では,整形外科学,薬理学,分子生物学らとの協働が存在し,すでに学際的な研究が展開されている。一般手術麻酔領域における神経科学研究を学際的にしていくことにより,他の診療科の医師や医師以外のさまざまな背景を持った研究者がこの領域に参加することとなる。その結果,麻酔科医のみでは想像しえない研究展開をもたらし,研究者間で専門性を超えた有機的なつながりが生まれると期待される。また学際的研究であることと同様に重要であるのは,臨床のプラクティスを革新することに資する研究であるかどうかである。特に基礎研究の場合,一般的に研究成果が臨床応用されるまでには膨大な時間,費用および労力を要する。だからといって,臨床応用可能性を考慮しない研究デザインでよいということにはならない。臨床科である麻酔科領域における研究である以上,最終目標は臨床のプラクティスを革新することとすべきであり,そこに到達するまでのグランドデザインを描いたうえで,逆算的にマイルストーンを設定し,目の前にある研究課題に取り組むべきと考える。
著者らはこれまでに “麻酔薬の新規効能の探索” に関する研究を遂行してきた。1つ目のテーマとして,吸入麻酔薬を精神疾患治療薬として応用できるかの可能性について,心理学系研究者と協働で研究を進めてきた。2つ目のテーマとして,吸入麻酔薬を用いててんかん責任領域(てんかん原性領域)を同定できるかの可能性について,脳神経外科医と協働で研究を進めてきた。ここではこの2つの研究テーマに関して概説したい。
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