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一般的に単純ヘルペスウイルス(herpes simplex virus,以下HSV)やエプスタインバーウイルス(Epstein-Barr virus,以下EBV)のようなヘルペスウイルスによる潜伏感染は,宿主の免疫が抑制状態になるとウイルスに対する免疫が低下するため,ウイルス再活性化が生じると考えられている。例えば,サイトメガロウイルス(cytomegalovirus,以下CMV)疾患は,T細胞応答が損なわれた場合にのみおこると考えられてきた。免疫細胞,特にT細胞がウイルス感染に対して保護的役割を果たすという認識が高まっているが,少し考え方を変えて同じ事象を眺めてみたい。正常または非炎症的な条件下で免疫は主に保護的であり,その免疫応答の増幅に差があり得ると考えるのである。すると急速にまたは突然に免疫の増幅が組織に生じた場合,逆説的に有害な事象(paradoxical reaction)がおきうることが理解できる。つまり組織恒常性維持のために絶えず生じている免疫応答は,さまざまな刺激シグナルが連続的に入るストレス環境において,応答の程度および動態が常に変動していることを強く意識する必要があるのである。このように考えると,ヘルペスウイルスの再活性化が免疫抑制の状況においてだけでなく,宿主免疫の回復(免疫再構築)が急速かつ突然におこる状況でも同様に生じうることが理解できるはずである。この概念を支持するデータとして,日和見感染の発生が宿主CD4+T細胞数および反応性の回復と一致するという報告がある。この現象は,免疫抑制状態からの迅速な免疫学的回復,または過剰な免疫応答の発現により特徴づけられる免疫再構築症候群(immune reconstitution inflammatory syndrome,以下IRIS)とよばれている1)~4)。IRISは宿主にとって有害な,日和見感染を悪化させる過激な炎症反応の病態でもある。HIV-IRISは抗レトロウイルス療法(antiretroviral therapy,以下ART)を開始しているHIV感染患者で観察された現象であることから,もっとも頻繁に報告されているが,HIV以外の患者に対して強力な免疫抑制療法(ステロイド全身投与やTNF-α阻害薬など)を行った状態から,免疫抑制療法の急激な減量または中止後にHIV患者にみられるIRIS類似の炎症反応がみられたという報告も増えている5)。このように,HIV-IRISの疾患概念は,以来徐々に普遍化し,non-HIV-IRISにまで概念が次第に拡大している。現在では,表1に示すような疾患まで包括している。本稿では,IRISという概念を,さまざまな免疫抑制療法に関連して発症する感染症や自己免疫疾患にも拡大して適用することの臨床的有用性を解説すると同時に,IRISの発症予防もしくはIRISの予後を改善するための考え方を紹介する。
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