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は じ め に
日本整形外科学会症例レジストリ(JOANR)年次報告2022年度版において,前腕の骨折観血的手術(ORIF)は総数が54,634例と整形外科手術の中で第5位と報告されており,そのうち橈骨遠位端骨折は約40,000例であった.前腕骨折手術全体の年齢分布は70~79歳が最多で,60~69歳,80~89歳と続き,多くは高齢者である.橈骨遠位端骨折は65歳以上の高齢者における全骨折の中で最大18%を占めるとも報告されており1),高齢化とともに本骨折の発生率はさらに増加することが予想される.
本骨折に対する治療法は従来保存療法が主流であった.現在も転位した骨折を徒手整復し,続いてキャスト固定を行う保存療法はよい選択肢になりうる治療法であることにかわりはない.一方で,近年では早期の機能回復を重要視する社会背景もあり,手術療法も選択されることが多くなっている.『橈骨遠位端骨折診療ガイドライン2017』でも弱い推奨ではあるが,青壮年者および活動性の高い高齢者の不安定型関節外骨折および転位のある関節内骨折に対しても手術療法は保存療法より有用であるとされている.手術療法はロッキングプレート(locking plate:LP)の登場以来,内固定には掌側LPが主に使用されている.しかし手術療法に関してもプレート固定,創外固定,Kirschner鋼線(K-wire)固定などで,どの方法が最適であるのかはいまだコンセンサスが得られていない2).最近のシステマティックレビューでも,60歳以上の橈骨遠位端関節内骨折例における掌側LP固定,創外固定,K-wire固定の比較で,術後1年の機能成績は同等であったと報告されている3).では,長期の治療成績はどうであろうか.橈骨遠位端骨折は手関節の機能を損なうだけでなく生活の質にも多大な影響を与え,長期的な障害につながる可能性があるため4),長期成績まで考慮した治療戦略を計画することが望ましい.
本稿では,長期にわたって経過観察している橈骨遠位端骨折の自験例を呈示し,長期成績に関する報告をまとめて考察した.

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