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【要 旨】
目 的:前方アプローチ人工股関節全置換術[direct anterior approach(DAA)-THA]の際に,寛骨臼の視野を確保するために,レトラクターは寛骨臼前壁に設置し腸腰筋を内側に牽引する.この手技が大腿神経を損傷するリスクになり得ると報告されている.しかし,大腿神経に与える影響を検証した報告はない.本研究の目的は前方レトラクターが大腿神経に与える影響を運動誘発電位(motor-evoked potential:MEP)を用いて分析することである.
対象および方法:対象は2016~2017年にDAA-THAを施行した22例22股とした.術中にMEPを使用し,大腿神経電位を3回計測した.初回は執刀直前で,本データをコントロールとした.2回目はレトラクターを寛骨臼前壁に沿わせ設置した直後,3回目は閉創後に測定した.初回と2回目間ならびに2回目と3回目間の電位を各々比較した.臨床評価として術後1週目の筋力を徒手筋力テスト(manual muscle test:MMT),また大腿神経の知覚障害の有無を検討した.
結 果:大腿神経の電位は初回で100%であったが,2回目で平均54(5~100)%まで有意に低下し(p<0.01),22例中17例(77%)において電位低下を認めた.閉創後の3回目では,2回目で低下した電位は平均77(20~100)%まで有意に改善した(p<0.01).術後1週で全22例においてMMTは5で,知覚障害はなかった.
結 論:DAA-THA時にレトラクターを設置直後,22例中17例(77%)において,大腿神経電位は有意に低下した.この低下した電位は閉創時に有意に回復し,術後に大腿神経麻痺を生じた症例はなかったが,寛骨臼前壁にレトラクターを設置する際は,大腿神経に十分注意すべきである.
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