Japanese
English
- 有料閲覧
- Abstract 文献概要
- 1ページ目 Look Inside
- 参考文献 Reference
【要 旨】
目 的:前方アプローチ(DAA)での人工股関節全置換術(THA)の合併症の一つとして大腿神経麻痺があり,寛骨臼前壁との近接性からレトラクタ挿入が原因になりうると報告されている.しかしどの領域がもっとも近いかは不明である.寛骨臼前壁へのレトラクタ挿入による大腿神経麻痺リスクを最小化するため,屍体を用いて大腿神経と寛骨臼の解剖学的関係について検討した.
対象および方法:ホルマリン固定された解剖献体44体84股を対象とした.仰臥位で皮切後,鼡径靱帯近位から寛骨臼下端まで腸腰筋ならびに大腿神経を剖出した.縫工筋,大腿筋膜張筋,大腿直筋を腸骨から切離,関節包と関節唇は切除し,寛骨臼前縁と大腿骨頭を露出させた.上前腸骨棘と寛骨臼中心を結ぶ基準線を定め,寛骨臼縁との交点を0°として前方方向に30°ずつ150°まで計測点を設定した.各計測点で骨性寛骨臼縁と大腿神経辺縁の最短距離をディバイダーで計測した.大腿長,鼡径靱帯長,骨頭径,骨頭中心高位での腸腰筋の幅・厚み,関節包の厚みを計測し,年齢,性別と合わせて最短距離に関連する因子を検討した.
結 果:大腿神経-寛骨臼縁間の平均最短距離は0°で33.2mm,30°で24.4mm,60°で18.4mm,90°で16.6mm,120°で17.9mm,150°で23.2mmであり,90°がもっとも短かった.重回帰分析の結果,腸腰筋厚,大腿長が90°での神経-寛骨臼縁間距離に関連する因子であり,いずれも正の相関関係であった.
結 論:解剖学的な距離の観点から考えると,レトラクタの挿入,設置は特に小柄で腸腰筋厚が薄い症例では基準線から前方90°の位置を避けるのがより安全と考えられた.
© Nankodo Co., Ltd., 2021