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は じ め に
正常股関節の安定性は,骨形態による安定性,軟部組織(靱帯,筋)による安定性,そしてvacuum sealingにより構成されている.健常股関節に人工股関節全置換術(THA)を行った場合,骨頭径の縮小,軟部組織切離,vacuum sealingの破綻などにより解剖学的位置関係を再現できても股関節の安定性は低下する.また変性が生じた症例では軟部の拘縮,弛緩や骨性インピンジなど違いもある.よって,安定しバランスのよい人工股関節を目指すためには,脚長補正を考慮した正確なインプラント設置を行ったうえで手術中に「さじ加減」をする必要がある.この「さじ加減」が軟部バランスの調整と考える.軟部バランスの調整方法として,ネック長調整,回転中心内外方化,脚長調整(ステム,カップ高位),ステムオフセット調整,軟部温存・切離・修復などがあり,これらを適宜組み合わせて最適な状態にする.つまり人工股関節の最適な設置位置は,解剖学的位置関係を正確に再現するものとはいえない.術中軟部緊張を判断する方法としてdropkick test,shuck testなどがあるが,これらは定性的,主観的な指標である.
THA術前計画では脚長補正を指標としてインプラントサイズ,カップ,ステム設置位置角度を二次元もしくは三次元的に決定するが,われわれの知見ではTHAを施行した症例で大腿骨長左右差が5mm以上異なる症例は12%,脛骨長左右差が5mm以上異なる症例は9%存在している.もともと健側より大腿骨が長い側の股関節に対してTHAを行う場合,変性で脚短縮が生じているにもかかわらずさらに脚短縮をしなければ脚長が一致しない場合がある.このような症例では,軟部の弛みのため脱臼リスクが上がることが予想される.また,両側末期股関節症では,そもそも術前計画の指標がない.われわれは,2003年よりTHA術中に頚部軸方向にネック長を延長しつつ周囲軟部緊張を計測する再現性の高いシステムを開発してきた1~3).われわれの目標は,骨形態を参考にした正確なインプラント設置計画を基に「定量」された最適な軟部バランスに調整されたTHAを行うことである.
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