書評
『ポケットチューター 体表からわかる人体解剖学(原書第2版)』
遠藤 俊輔
1
1自治医科大学附属さいたま医療センター/呼吸器外科
pp.372
発行日 2022年5月1日
Published Date 2022/5/1
DOI https://doi.org/10.15106/j_kyobu75_372
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- 文献概要
医師としての重要な役割は,解剖を熟知して身体所見から得られる情報をもとに診断することや,体表から体内に安全にアプローチして検査・治療を行うことである.検査・診断技術が日々進歩する現代の医療においても,症状や身体所見から得られる情報はもっとも重要であり,診察の基本となることはいうまでもない.筆者が専門とする呼吸器外科診療においても,身体所見や症状が重要であることを痛感したことがあった.肺尖部に腫瘍ができた症例では,Horner症候群による患側の発汗障害を生じるだけでなく尺骨神経障害による小指側の運動知覚障害が起こることは,医学部の講義で教わっている.現場でそのような患者が小指のしびれを訴えても別の疾患に起因すると考え,整形外科や神経内科を受診させたために治療が遅れてしまったことがあった.一般医師だけでなく呼吸器専門の医師であっても,肺尖部は体表上頸部の付け根にあり,肺尖部に異常があると腕神経叢の下端の尺骨神経を障害することが理解されていないことがある.このような事例は,体表からの解剖学的な位置関係をイメージできていないことが原因と考えられる.
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