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どんな薬?1-4)
がんに対する薬物療法はがん研究とともにパラダイムシフトを繰り返しています.20世紀では殺細胞性抗がん薬が主流で,新規抗がん薬の開発,多剤併用化学療法,ほかの治療方法と組み合わせて行う集学的治療が活発に行われてきました.その結果,生存期間の延長や症状緩和といったベネフィットをもたらした一方で,治療効果が得られないがん種があるということは依然として大きな課題でした.2020年代になると科学技術の発展が大きなきっかけとなり,抗体薬が創薬されるようになりました.抗体薬は免疫を利用して,病気の原因となっている抗原に対する抗体を人工的に作った治療薬であり,分子標的薬と呼ばれています.最初に承認された抗体薬は乳がんに対するトラスツズマブで,続いてB細胞リンパ腫に対するリツキシマブでした.当初は抗体のみを用いた薬剤でしたが,その後抗体に殺細胞性抗がん薬を結合させた抗体薬物複合体が開発され,続いて2つの抗原に結合可能な二重特異性抗体が開発されました.
二重特異性抗体は,1つの抗体が同時に2つの異なる抗原に結合することができるように創薬されました.通常ヒトの体内に存在する抗体は1つの抗原にしか結合しません.リツキシマブなどの抗体薬も1つの抗原(CD20)にのみ結合します.しかし,二重特異性抗体は異なる2つの抗原(がん細胞とT細胞)に同時に結合することができ,がん細胞にT細胞を誘導させて効果的に攻撃させることができます.また,非小細胞肺がんに適応となっているアミバンタマブは肺がん細胞の表面に発現しているEGFRとMETに結合し,EGFRとMETのシグナル伝達を阻害することで強力な抗腫瘍効果を示します.このような二重特異性抗体薬は2025年現在8剤が承認されています.
エプコリタマブはB細胞性非ホジキンリンパ腫に適応となっている二重特異性抗体薬です.B細胞性非ホジキンリンパ腫は抗CD 20抗体のリツキシマブが登場して以来,治療成績は大幅に向上し,長期生存が可能になってきました.しかし,再発も多く,新たな治療法がまたれていました.そこで開発・承認されたのが抗体薬物複合体のポラツズマブベドチン,CAR-T療法(キメラ抗原受容体T細胞療法),二重特異性抗体薬のエプコリタマブです.エプコリタマブの国内外で行われた臨床第Ⅰ/Ⅱ相試験において,少なくても2つ以上の前治療歴があるB細胞リンパ腫に対する認容性と安全性が確認されています.しかし,T細胞が過剰に活性することで出現する免疫関連有害事象のサイトカイン放出症候群(cytokine release syndrome:CRS)や免疫エフェクター細胞関連神経毒性症候群(immune effector cell-associated neurotoxicity syndrome:ICANS)など患者の生命に影響する副作用症状も出現するため,十分な管理が必要です.

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