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どんな薬?
ブスルファンは,ナイトロジェンマスタードの作用機序解明,毒性の少ない類似物質を探求しているときに発見された薬です.日本では1957年に経口薬のマブリン®散が承認され,真性多血症およびまん性骨髄性白血病の症状緩和目的で使用されてきました.その後,1980年代に造血幹細胞移植前処置としてブスルファンの有効性が報告されるようになり,ほかの抗悪性腫瘍薬あるいは放射線療法との併用で使用されるようなりました.当時,造血幹細胞移植を受ける患者さんが,前処置として大量のマブリン®散を内服するのは非常に大きな苦痛で,強度の倦怠感や悪心・嘔吐などの強い消化器症状が出現する中で,最後まで飲むのを見届けるのが看護師の役割の1つでした.涙しながら服用している患者さんを励ましながら,注射薬の開発を強く望んでいたのを覚えています.また,経口薬のマブリン®散は,消化管からの吸収効果に個体差があり,患者の薬物動態に差が出てくるため,治療効果や再発率,副作用症状をコントロールすることがむずかしいことがわかっていました.そういった背景もあり,1990年代後半に米国の製薬会社がブスルファンの注射用製剤(ブスルフェクス®)を開発しました.日本では「造血幹細胞移植時の前処置」として,2003年に希少疾病用医薬品の指定を受け,2006年に承認されています.
注射用製剤のブスルフェクス®は今までの経口薬に比べ,体内薬物動態が比較的安定し,多くの症例で血中濃度を有効安全域に保つことが可能となりました.ただし,肝中心静脈閉塞症(VOD)や感染症および出血,ショック,けいれん,肺胞出血・喀血,急性呼吸窮迫性症候群,間質性肺炎,呼吸不全,心筋症,高度の消化器症状(口内炎,悪心・嘔吐,食欲不振,下痢など)などの重大な副作用を回避できるわけではないので,十分な管理体制のもと使用する必要があります.ブスルファンは多くのがん種で使用される抗悪性腫瘍薬ではありませんが,造血幹細胞移植を受ける患者さんのKey drugの1つであり,知識をもっておく必要があります.
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