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どんな薬?
がんは,遺伝子の変異によってできた細胞が,制御されない増殖を繰り返し,浸潤・転移を起こす病気の一群のことです.がんは,正常細胞の変異によって始まり,ゲノムの不安定性,炎症,腫瘍微小環境との相互作用などによってがん細胞に変換されます.こういった,がん細胞の特徴やがんゲノムの解明,発がんのプロセスといった研究は古くから活発に行われており,その情報は常に更新されています.2000年以降に,米国生物学者のHanahan Dらが,がんの発生から進展,転移までがん細胞が段階的に数々の特性を獲得していくという仮説「The Hallmarks of Cancer」を発表しました.この仮説では,がんの特徴が11個示されており,その中の1つに血管新生の誘導が挙げられています.この血管新生の誘導を阻害する目的で,血管新生阻害薬が開発されました.
ベバシズマブは血管新生阻害薬として初めて臨床的有用性を示した薬で,日本では2007年に承認されました.当時は,がん細胞を直接傷害する抗悪性腫瘍薬が主流だったので,がんの転移や浸潤について分子生物学レベルで理解するのは非常にたいへんでした.また,今までになかった創傷治癒遅延や出血,血栓塞栓症,高血圧といった新たな副作用への対応を当時の臨床現場では手探りで行っていた記憶があります.
正常細胞は固定された血管を通じて,生命維持のための栄養分や酸素の供給と,代謝で生じた不要物や二酸化炭素を排泄しています.がん細胞も,自身の生命維持のために同様のシステムが必要なため,新生血管を作って対応しています.血管新生を誘導する因子としてVEGF (Vascular Endothelial Growth Factor)などの血管内皮増殖因子があります.VEGFの発現は,腫瘍の成長に伴って低酸素状態になったり,がん遺伝子シグナルによって発現が亢進されることがわかっています.この特性に対応した治療薬がベバシズマブです.
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