連載 がん患者の“食べる”に寄り添う ~食べることをあきらめない~ 【新連載】
摂食嚥下の基礎知識
三串 伸哉
1
1森本歯科医院/日本摂食嚥下リハビリテーション学会認定士,日本老年歯科医学会摂食機能療法専門歯科医師
pp.60-64
発行日 2023年1月1日
Published Date 2023/1/1
DOI https://doi.org/10.15106/j_kango28_60
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食べることの意義
われわれは,ほかの生物同様に生命活動をするためにエネルギー摂取を必要とする.また,多くの人にとって食べることは喜びでもあり,食事はコミュニケーションの場ともなる.
摂食嚥下障害により口から食べにくくなると,脱水や低栄養のリスクが生じる.経管栄養により安易にエネルギーを満たすことはできるが,それによるデメリットを考慮すべきである.たとえば,食べないことでの口腔から腸管までの咀嚼(そしゃく),嚥下,消化のために働く運動器官の廃用が生じる.口腔粘膜の新陳代謝は早く,食べないことで垢がたまり,唾液がでないことで乾燥し,口腔衛生状態は不良になり,口腔免疫機能も低下する.また,食事による味覚など五感で受ける刺激や咀嚼運動は脳を活性化するため1),食べないとそのメリットは失われる.経静脈栄養のみで腸管を使わないと免疫機能は低下する.このように食べることは全身の生理的活動に影響する.また,「死んでも〇〇〇が食べたい」という患者も少なからずいる.誰しも人生の最期に食べたいものがある(表1).食べることや,食べたいものを食べることへのモチベーションは純粋な精神的欲求であり,ごく急性期の状況をのぞいては,本人の意思としっかりと向き合い,寄り添うべきである.それは在宅医療や終末期医療だけではなく,治療のための入院下でも基本的に同様と考える.食べる権利や責任は患者本人にあり,患者の意思に対して医療や介護の専門職が協力して,個々の患者にどのようなサポートができるかが肝心である.
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