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人にとっての「食べること」とは,その生命を維持するための絶対の営みであり,生きることそのものです.食生活というものは,人それぞれの生活習慣,地域の文化とも深くかかわり,ほかの人々との交流を生み,生きることの楽しみ,さらには生きる力にもつながるものでもあります.
がんの患者にとって,「食べること」とは,治療の完遂のための体力維持に必要不可欠なものであり,「食べること」は患者の精神的健康観やQOLに大きく関係し,「食べること」が,楽しい,美味しいと感じることは,患者の生きがい・生きることへの意欲にもつながります.しかし,がん患者さんの多くは,嚥下障害,悪心・嘔吐,口内炎など,治療の副作用からくる「がん関連性低栄養」あるいは,がんそのものによる全身性のエネルギー代謝障害によって,栄養消費量増加に起因した「がん誘発性低栄養」状態が生じ,それらによる体重減少や低栄養は,不良な予後とも関連するといわれています.さらに,「がんと言われた」「治療がつらい」「変な味がする」など,患者さん,またご家族は,まずは治療や病気のことに心が向いてしまい,食べることは二の次になられることも多いのではないでしょうか.
私たち看護師は,がん患者さんが抱える食のリスクと制限のなかで,がん患者さん・ご家族が「食べるを楽しむ」ために,どのような知識をもち,どのような選択をし,多職種と連携し,どのようなかかわりをもつべきなのでしょうか.
「安全」に食べることは確かにとても大切なことです.しかし「安全」のため,十分なアセスメントをしないまま,口から食べることが簡単にあきらめられてはいないでしょうか.
本企画では,がん患者さんの口から「食べるに寄り添い」,口から「食べることをあきらめない」看護について考えるヒントとして,それぞれの現場で,がん患者さんたちの口から食べたいとの思いを受け取り,口から食べる喜びを感じることができるように,食べるを支えるための看護実践に活用していただけることを願い,さまざまな角度から,がん患者さんの食べることについての基礎知識やアセスメント,具体的な取り組みを紹介します.
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