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は じ め に
関節リウマチ(RA)に対する薬物治療は近年劇的に進歩し,現在ではメトトレキサート(MTX)や生物学的製剤,分子標的治療薬が広く使用されている.薬物治療の進歩によって滑膜炎が良好にコントロールされるようになり,小関節では関節温存手術が可能となってきており,特に本邦では前足部は関節温存手術が主流となっている1).しかし,大関節における関節温存手術についてはいまだ議論の残るところである.膝関節ではRAに対する関節温存手術として高位脛骨骨切り術を行った報告が散見され,良好な術後成績を得るためには生物学的製剤の使用などによる疾患活動性のコントロールが重要であると報告されている2).肘関節は荷重の影響を受けないため,疾患活動性が良好にコントロールできていれば下肢荷重関節よりも関節温存手術での良好な長期成績が期待できる可能性が考えられるが,生物学的製剤時代における肘関節の関節温存手術に関する報告は少ない.
RAの肘関節病変は20~65%の頻度で発生するとされており3),関節炎が持続すると疼痛や関節破壊のために肘関節の関節可動域(ROM)制限が生じ,食事や整容動作といった巧緻動作が低下して日常生活動作(ADL)障害へとつながる.RA肘関節に対する治療として,関節破壊が軽度の場合にはまず薬物治療の強化や関節内へのステロイド注射を行うことが多い.これら保存的治療で症状が改善しない場合,あるいは関節破壊が進行した場合には手術的治療が選択肢となる.RA肘関節に対する術式としては人工肘関節全置換術(total elbow arthroplasty:TEA)と滑膜切除術があり,一般的にはLarsen分類Ⅰ~Ⅱの関節破壊が軽度な症例では滑膜切除術,Ⅲ以上の関節破壊進行例に対してはTEAが行われることが多い4).
TEAは良好な長期成績が報告されている5,6)が,インプラント周囲骨折,無菌性弛み,上腕三頭筋断裂,術後感染といった術後合併症の発生率が25%程度と高いことが報告されている7,8).TEAはひとたび合併症が生じると,大きな骨欠損が生じたり,インプラントの種類が限られたりしているため治療に難渋することが多い.そのためTEAは長期予後を考慮しながら,慎重に手術適応を決定する必要がある.
広汎滑膜切除術はTEAで問題となるような術後合併症のリスクが少なく,生物学的製剤時代において術後長期に関節破壊が抑制できれば,関節温存手術として関節破壊進行例にも適応拡大できる可能性があると考えられる.われわれは以前からRA肘関節破壊進行例に対しても積極的に広汎滑膜切除術を行ってきており,本稿ではその成績を調査し,関節温存手術としての今後の可能性について考察する.
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